国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-03-28 06:30

財界人が政党党首を追い落とす背景

杉浦 正章  政治評論家
 資金提供を受けた財界人から「追い落とす」と宣言されて、一党の党首が政治生命の危機に陥っている。みんなの党代表・渡辺喜美が崖っぷちだ。長いこと政治記者をやっているが、政治家が財界人に“刺される”ケースを初めて見た。化粧品大手DHC会長・吉田嘉明(73)が撃つ弾は、明らかに公職選挙法違反か政治資金規正法違反での立件であり、渡辺は本当に追い落とされかねない状況にある。「降ろされてジ・エンドになるよりは、潔く身を引く選択がベター」と、前都知事・猪瀬直樹の5000万円借入れの件で発言したのは渡辺自身だ。因果はめぐる火の車で、しかも額は猪瀬の16倍の8億円だ。あのロッキード事件が5億円だから、けた外れの額だ。それも参院選直前と衆院選直前に振り込まれている。誰が見ても正規の手続きを踏んで届けなければならないカネである。これを裏付けるように吉田は「選挙資金として貸した」と、渡辺が逃れることが出来ない“証言”をしている。

 なぜ渡辺はこれほど吉田を怒らせたのか。背景には党分裂劇が複雑に絡んでいる。渡辺は3月27日の記者会見で「吉田さんの怒りを買った。言うことを聞かなければ追い落とすと言われ、それを実行に移された」と語った。また同党の会合で「吉田さんは突っ込んだ話を知っている。結いの党の江田憲司が吹き込んだものだろう」と漏らしている。吉田が何を知っていたかというと、みんなの党分裂とゆいの党結成のいきさつだ。吉田と渡辺は2009年に知り合って以来の関係にあり、吉田は渡辺のスポンサーとして資金提供をし続けてきた。吉田はみんなは維新と合流するべきだとの立場であり、渡辺が維新と一線を画し始めたころから強い不満を持っていた。恐らく吉田は維新に近い江田にも影響力を行使したに違いない。やがてみんなは分裂へと発展してゆくが、吉田は渡辺がみんなの離党を認めないことに、メールでたびたび「会派離脱を認めるべきだ」と不満を表明したと言われる。その背後には、吉田の怒りを活用して、政敵・渡辺を追い込もうとする江田の“工作”があると見るべきであろう。どろどろとした確執が紛れもなく存在する。

 そしてついには吉田は、昨年末に渡辺との決別を宣言し、「追い落とす」のメールで脅迫を続けた。渡辺は、資金提供公表の危機を感じたか、まずいと判断し、2月9日には突然吉田の自宅を訪れて土下座して謝ったと言われる。しかし、吉田は聞き入れず、「週刊新潮」に手記を発表する形で公然と「追い落とし」に着手したのだ。渡辺は記者会見で「国会内のルールに則したことをやめよと言われても、乗れない。私にも政治家としての理念、信念、路線がある」と開き直った。渡辺が今後どのようにして、苦境をすり抜け得るかだが、猪瀬と全く同じで、「個人への献金である」という主張で、法の網から逃れるしかあるまい。しかし吉田が選挙資金として提供したと証言している以上、渡辺の主張は通りにくい。渡辺は、2012年の資産報告書で借入金を2億5000万円と記入したことは、あっさり「ミスである」と認めた。資産報告書への記入ミスは罰則がないから認めたのだが、借り入れの額を低くしたのは明らかに隠ぺいの“意図”が感じられるものであろう。おまけに8億円の使途についても「もろもろ」と述べた上に、唯一の具体例として「酉の市でかなり大きい熊手を買った」と述べたが、これこそ噴飯物である。

 渡辺は、吉田との関係悪化に反比例するかのように安倍政権に大接近した。「責任野党」を標榜して、秘密保護法への賛成、集団的自衛権容認への賛成を次々に表明した。これは吉田によって“刺される危機”をひしひしと感じて、政権を味方につけておこうという思惑があったのだろう。今後与野党は倫理委員会などで真相究明に乗り出す。あらゆる事象が公職選挙法や政治資金規正法違反の可能性を示しており、渡辺が詭弁(きべん)で切り抜けることは困難だ。さらにこれに受託収賄が絡めば、大きな事件となる。吉田は普段から厚生労働省の化粧品への規制に強い不満を抱いていると言われ、渡辺への請託とこれを受けた国会質問などがあれば、事態は受託収賄罪にすらなりかねず、そうなれば返り血を浴びることになる。古くはリクルート事件で就職協定をめぐる質問をめぐって野党議員が受託収賄に問われた。2001年には元労相・村上正邦、元参院議員・小山孝雄らがKSD事件で逮捕されたが、小山は KSDに有利な国会質問をした見返りに賄賂を受け取ったとする受託収賄罪で起訴されている。DHCの場合、闇の深さはまだ分からない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会