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2014-03-05 06:07

原発新増設をためらう必要はない

杉浦 正章  政治評論家
 一体何回負けたら気が済むのか、と思いたくなるのが「原発ゼロ」派だ。総選挙で負け、参院選挙で負け、都知事選挙で負けたにもかかわらず、いまだに「ゼロ」を主張して、自民党副幹事長・河野太郎を筆頭に政府提案の「エネルギー基本計画」に大幅修正を加えようとしている。こんどは「総選挙の公約違反だ」と言いだした。人間自分の都合の悪いことはすぐに忘れると見える。総選挙は「原発ゼロ」の大合唱の中で自民党だけが「再稼働」を唱えて圧勝したのであり、公約違反の指摘は全く当たらない。むしろ「基本計画」がほのめかしている「原発新増設」を、今月中に作る最終案ではより一層明確にすべきである。国会やマスコミから審査の遅れを指摘されている原子力規制委員会もようやく重い腰を上げて、優先審査に取りかかり、夏には再稼働1号が出る見通しとなった。「基本計画」のポイントは民主党政権が打ち出した亡国の「2030年代原発ゼロ」の方針を180度転換して、原発を「重要電源」と位置づけて、活用する方針を打ち出したことだ。首相・安倍晋三も「世界で最も厳しい基準で規制委員会が安全だと判断した原発は再稼働する」と明言した。

 将来の科学技術への希望を託して、核燃料サイクルも推進の方向だ。太陽光など再生可能エネルギーの導入については「3年程度導入を最大限加速する」とした。政府・与党は政権に就いたときから「3年様子を見る」としてきたが、今回期限を「3年」と区切った理由は何かと言えば、なかなかめどが立たないことを意味している。ドイツの例に見られるように、太陽光の買い取りは電気料金の高騰を招き、国民の生活と経済を圧迫しており、理想通りに行かないのが実情だ。スペインは買い取り制度が完全に破たんした。3年程度様子を見て、見極めればよい。もちろん蓄電池の開発などが進めば、将来展望が開ける可能性はあるが、太陽光は天候の影響と夜間の停滞、風力は風次第であり、不安定さは否めない。計画が位置づけた電源は「重要なベースロード電源」が、原子力、石炭、水力、地熱。「ミドル電源」が天然ガス、LPガス。ピーク時に使うコストの高い「ピーク電源」が石油、揚水式水力であり、1%に満たない再生可能エネルギーは、位置づけされていない。河野が「原発は過度的な電源として明記すべき」と主張しても、「名月をとってくれろと泣く子かな」(一茶)の域を出ないのだ。

 それどころか、今後のエネルギー政策の動向を分析すれば、原発を中心としたエネルギーミックスしか方途がないことは歴然である。経団連会長の米倉弘昌が「原発が一定割合の発電を担うなら、新規の発電所も認めざるを得ない時期が来る」と述べ、「新設が必要だ」との考えを示したのは、実にもっともな判断である。さらに米倉は「安全な原発の研究が世界的に進んでいる。古い原発を廃炉にし、汚染物質の量を減らすことは、安全性の面からも必要だ」とも強調している。これに対して河野は「原発を40年で廃炉にするならば2050年にはゼロになる」と捕らぬタヌキの皮算用をしているが、若い割りには科学的知見が貧弱だ。要するに、河野に代表される「ゼロ」論は日進月歩の科学技術を無視しているのだ。福島で事故を起こした原発は第1世代であり、その後第2世代を経て、現在の世界の潮流は第3世代に至っている。第3世代の原発は、福島事故を経てシビアアクシデント対策が最重視され、導入されている。福島とは全く別物と言ってよい原発である。30年たつと科学技術がどれくらい進歩するかは、端的に言って車を見れば明白だ。ガソリン車から電気自動車へと変ぼうし、水素自動車までできている。安全性も注意力散漫になる人間の特性を考慮して、運転のほとんどをコンピューターが行う車まで出来ている。同様に原発も考えられるあらゆる事故を想定した第3世代の時代になっているのだ。

 世界の潮流を見れば、現在430基があり、今後さらに100基の建造が予定され、世界は第3世代の原発を軸に原発建造ブームとなっている。化石燃料を燃やしてCO2を垂れ流しにして、地球温暖化と気候大変動を招いている現状の方が、原発よりよほど危険で、死傷者も多いことを、世界各国が認識している証拠である。したがって日本だけが新増設しなければ、国力は相対的に下落傾向をたどり、しまいには韓国にまで追い抜かれかねない。今回の「エネルギー計画」も、原発新増設への門戸を閉ざしているわけではない。原発依存度について「確保していく規模を見極める」としたのだ。明らかに今後の新増設に含みを残したものと言える。第1世代の原発は老朽化が著しく、稼働させてもコストがかかってペイしない公算が高い。したがって遅くとも2020年代を目指して、リプレースを軸に新増設を推進する方向を打ち出すべきだ。電力の安定供給と、世界の原発の安全性、効率性を確保するためにも、信頼されている生産国の日本が躊躇(ちゅうちょ)すべき時ではない。
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