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2014-02-20 06:59

安倍の身から出たさびが、ひいきの引き倒し

杉浦 正章  政治評論家
 別の首相側近が米国の失望声明の直後に「こっちが失望した」と漏らしていたことから、これはまずいことになると直感したが、その通りだった。首相補佐官・衛藤晟一が発言を“コピー”して公言してしまったのだ。慌てて官房長官・菅義偉が取り消しを命ずる始末となった。それにつけても首相・安倍晋三の側近や盟友なる人々は、どうしてこう知性が感じられないのだろうか。物事を理性的に対処せず、感情論で押し通そうとするのが共通項だ。昔は赤尾敏にせよ、極右はそれなりの理論武装をしていて、品格のようなものがあった。ところが、逆の人物ばかりを回りに置いて、安倍は防御陣を厚くしようとする。結局安倍に一番の責任がある。身から出たサビが、ひいきの引き倒しをしている図式だ。米国の場合、大統領補佐官はまさに知性と知見と洞察力の固まりだ。キッシンジャーを見れば分かる。これを真似て細川護煕が首相補佐官制度を作ったが、はっきり言ってこれまでろくな補佐官がいない。その象徴が衛藤であろう。

 こともあろうに、他人の発言をそのままコピーして、動画サイトで「むしろわれわれのほうが失望だ」とコメントした。仮にも首相補佐官である。発言すれば、どのような反響が出るかということくらいは予知して当然だが、全くその気配は見られない。折から国会は予算審議の最中であり、政権にとって正念場である。閣僚や側近の一言が審議に影響しかねないピリピリした緊張状態にある。それを知ってか知らずか、側近はのほほんと YouTubeでピントが狂った「演説」である。官房長官・菅義偉が激怒したのも無理はない。どうも安倍の靖国参拝には、衛藤のミスリードがあったような気がしてならない。衛藤の一連の発言がいみじくもそれを物語る。衛藤は靖国参拝に先立って対米根回しを担当していたのだ。11月20日にはワシントンで国務次官補ラッセルと会談、安倍の参拝の方針を伝えた。12月はじめには米大使館で首席公使に「参拝を賛成して欲しい」と要望した。いずれも回答は「慎重にして欲しい」であった。しかし衛藤は、安倍には「強い反応は出なかった」と報告した感じが濃厚である。少なくとも自分の意見としては、「ゴー」のサインを出したのであろう。その結果安倍は、 九仞(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く行動に出てしまったのだ。

 知性欠乏型側近はまだまだいる。内閣官房参与・本田悦朗はウオールストリート・ジャーナル紙に神風特攻隊の自己犠牲を語りながら、涙を流したという。官房参与たるものがインタビューに応じるなら、冷徹に理論的に首相の代弁をしなければならない。ところが感情をあらわにして、落涙などしてしまったのだ。首相の取り巻きの平衡感覚の欠如と異常性をいみじくも国際的に知らしめてしまった。一方で、自民党総裁特別補佐・萩生田光一は、何と来日が予定されているオバマを名指しで批判した。荻生田は「失望した」声明について「共和党政権の時代にはこんな揚げ足取りをしたことはない。民主党政権だから、オバマ政権だから、言っている」と噛みついた。政権中枢の者は思っていても言ってはいけない言葉だ。一方でこの「安倍人事」の弊害はNHK人事に如実に表れた。まるで“舌禍”がまん延したかのような状況だ。まず会長・籾井勝人が「慰安婦はどこにもあった」と本当のことを言ってしまって、ひんしゅくを買った。経営委員の百田尚樹は都知事選で極右・田母神俊雄を応援し、対立候補を「人間のクズ」と言い放った。この百田という人物も異常なところがあって、「民主党は百田を国会に呼び出せ。びっくりするようなことをいっぱいしゃべってやる」と挑発し、民主党は参考人招致を決めた。長谷川三千子は、新右翼の活動家で朝日新聞本社で拳銃自殺した野村秋介を、「神にその死を捧げた」と礼賛した。NHK人事で野党は硬化しており、政権揺さぶりの材料として“活用”する構えだ。

 これら全ての発言は、安倍の過度なる自己防衛人事の結果である。周りを石垣で固めるように、同類の人物ばかりを集める。第1次内閣が「お友達内閣」と呼ばれたように、今度は盟友政権を形作っている。しかし、この安倍の極単に片寄った人事は世の中に誤解を招く。集団的自衛権容認の憲法解釈にしても、原発再稼働にしても、対中・対韓外交にしても、安倍本人のやっている方向は正しいし、普通の国家になろうとしているだけである。それにもかかわらず、極右の側近が目立ちすぎて、政策そのものが右傾化したと誤解されるのだ。菅はまるでモグラ叩きのように、次から次に打ち消さなければならない。2月17日付の米紙ワシントン・ポストが、「日本の挑発的な動き」と題した論説で、安倍が強硬なナショナリズムに転じているため、アジアの安全保障問題を深刻化させていると指摘した。その上でオバマのアジア歴訪を、「危機の予防」と位置づけた。同紙はNHK人事についても、中国や韓国だけでなく、米政権内の「警戒ベル」を鳴らしていると主張した。この論説を「誤解」と片づけるのは簡単だが、安倍周辺の同様発言が繰り返される限り、世界中で「誤解」が重なり、結局は中国や韓国を利するだけとなることを安倍は肝に銘ずるべきだ。弛緩した政権のたがを締め直すべきだ。
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