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2014-02-17 06:55

周永康事件で中国政界に激震か

杉浦 正章  政治評論家
 安倍の靖国参拝へのデモも抑えているし、米軍機の示威行動も黙殺しているから、どうも中国が大人しすぎると思っていたら、国内が大変なのだ。共産党政権発足以来の大疑獄が3月にも摘発される様相となってきた。既に自宅軟禁状態にある元序列9位の周永康の汚職捜査の公表だ。事件は明らかに権力闘争の様相を示している。中国国家主席・習近平が江沢民の率いる石油閥への壊滅的打撃を計ろうとしているのだ。習は既に軍と武装警察を掌中に収めており、汚職摘発により権力集中が完成する。逆に江沢民側は習の親族の蓄財を暴くなど泥仕合の様相も深めている。狙われた周永康は、石油技師などを経て国土資源相、公安相などを歴任し、2007~12年には政治局常務委員(序列9位)を務めている。10月末に収賄罪などで無期懲役が確定した元重慶市党委書記・薄煕来とも近い存在である。既に指導部は息子を拘束、元秘書を取り調べるなど疑惑固めを急いでおり、周に近い「石油閥」の大手国有石油企業幹部らを相次ぎ摘発している。

 習近平は「トラもハエも逃さない」と明言しており、周は、絶対外れることのないトラバサミにかかった形だ。その罪状は警察・司法の地位を利用して汚職官僚をかばい、高官や元老らの通信を盗聴して「反党行為」を繰り返したというもののようだ。事件の関係者は5800人に達すると言われており、周永康事件は党常務委員には絶対捜査の手が及ばないというこれまでのタブーを破るものとなる。中国政界に激震が走ることは確実だ。問題は、この汚職摘発が権力闘争の色合いを濃厚にしていることである。中国の3大派閥は、胡錦濤・李克強らの共産党青年団系、習近平の太子党系、江沢民の上海閥系に大別され、焦点の上海閥は石油利権との結びつきが濃厚であり、石油閥とも言われる。この石油閥の中枢に位置するのが周永康であり、これを打ち崩せば、江沢民派は壊滅状態となり、習近平の権力集中策は成功する。習近平は就任以来、力によって党内、民衆を押さえ込む動きを強めてきた。言論統制や思想宣伝策を強化しており、昨年11月の第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では、「国家安全委員会」を設置し、そのトップの座に座った。

 同委員会は、中国の軍、警察、外交部門などの情報・安全保障・宣伝部署などを統合する組織であり、共産党1党独裁体制維持・再構築の中核になるものとも言える。各地で起こる年間20万件とも30万件とも言われる暴動・デモが共産党の存立にとって取り返しのつかない様相になるのを懸命に抑えようとするための措置である。習近平はこの安全委を核に、軍と武装警察部隊(武警)の双方を掌握した。武警は150万人以上との指摘もある。治安対策とされる「公共安全費」は13年で約13兆2000億円に達し、約12兆7000億円の国防費を上回るに至っている。習近平は近く捜査が開始となる周永康事件で「汚職摘発に聖域なし」を一罰百戒の形で国内に知らしめ、中央・地方に蔓延する政治家や官僚の汚職、蓄財にメスを入れる構えだ。規模といい、対象人物といい、歴史的な取り締まりとなるものだが、その意図が自らの権力集中に傾斜していることは言うまでもない。したがって、政敵の汚職は摘発しても、味方の汚職は摘発しないことになり、抜き差しならぬ共産党政権の「汚職体質」は温存されこそすれ、一掃されることはない。

 この習の思惑を見抜いたかのように、江沢民系からは政権直撃の汚職、蓄財情報が流され始めている。江派による反撃である。最近世界中のメディアにばらまかれた情報は、習近平や前首相・温家宝らの親族がタックスヘイブン(租税回避地)の英領バージン諸島などで設立した会社を通じて資産を運用している、という衝撃的なものである。明らかに江派が起死回生の反撃に出たものとされている。しかし大きな潮流としては、反撃しても党中枢を握る習近平が最終的には勝利するとの見方が濃厚であり、春にかけてデスマッチが展開されることになる。この党大幹部の腐敗すら“活用”して、自らの地位を確立しようとする習近平の飽くなき権力欲は、凄まじいものがある。問題は、この権力闘争に勝ち抜いた後の習が対外的に強攻策に出る可能性が濃厚であることだ。最近中国では首相・安倍晋三をヒットラーになぞらえる論調が盛んだが、凄まじいまでの権力闘争を見る限り、「安倍ヒットラー」などはまだ可愛い部類に入る。問題は権力を集中した「習近平ヒットラー」が何をしでかすか分からないことである。
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