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2014-01-31 06:23

山口は安倍との暗闘で敗色濃い

杉浦 正章  政治評論家
 暗闘は暗闘のまま終わって、政権分裂というような事態には至らないのではないか。首相・安倍晋三と公明党代表・山口那津男の関係である。集団的自衛権や教育改革をめぐって、政権成立以来の“確執”が春以降最終局面を迎えるが、どうも山口の旗色が悪い。本人も妥協的な発言をするに至っている。なぜ変わってきたかと言えば、負けそうであるからだ。安倍がみんなと維新両党に大接近した結果、公明党が置いてけぼりを食らいそうな局面が出てきているからだ。安倍・山口のバトルの原因は、理念の違いをそのままに、数合わせだけの連立を組んだところが大きいが、山口に対する抜きがたい不信があることも否めない。民主党政権ができて自民党が野に下り、一番苦しいときに山口が「裏切った」(自民党幹部)からだ。山口は民主党政権が長期に続くと誤判断し、首相・鳩山由紀夫にすり寄ったのだ。小沢一郎と仲のよい市川雄一を常任顧問に起用、「一・一ライン」による連立を視野に、裏で動いた。結局、首相・鳩山由紀夫がずっこけて、山口も民主党政権が長くないと気付いて方針転換したが、これが意味することは、公明党の「飽くなき政権意欲」である。また政権党であることがどのくらい創価学会の役に立っているかを物語る。ひとたび政権の“蜜の味”を覚えた公明党には、野党色などとっくに薄れ、なりふり構わぬ権力執着の習癖が出来上がっているのだ。

 加えて、山口の政治理念は絶対平和主義の学会婦人部の路線を重視し、かつての社会党並みのイデオロギーが根底にあるような気がしてならない。これが安倍の保守路線とどうしても相いれない側面がある。ぶつかり合いは政権発足時からあった。山口は発足早々に安倍の持論である集団的自衛権の容認に食いついた。憲法解釈を変更するなら「連立を離脱する」とまで言い切ったのだ。これが参院選まで続いて「断固反対」を言明した。山口は連立離脱を軸に安倍を揺さぶったのだ。安倍政権のいわば1丁目1番地の安保政策に真っ向から食いついたのだ。しかし、この山口の姿勢は「飽くなき政権意欲」とは矛盾する。こうした中で、安倍は山口に対する暗闘を一層鮮明化させる動きを見せた。その手段が、意外に得意であることが分かった宴席政治である。昨年11月にはみんなの党代表・渡辺喜美と会食して、秘密保護法成立の流れを作り、12月には維新共同代表の橋下徹と約3時間にわたって会食した。この流れが両党との政策連合への動きを加速させている。維新幹事長代行・松野頼久は代表質問で「責任野党として、外交・安保、憲法改正については協力する」と言明、集団的自衛権容認の構えを見せた。一方、安倍は渡辺に対して施政方針演説の直後に電話して政策協議を提案、これを渡辺は受諾した。渡辺は「首相の戦う覚悟と戦略が我々と共通のものなら、真摯(しんし)かつ柔軟な協力を惜しまない」と発言したのだ。

 この維新とみんなと安倍との大接近は、山口の発言の変化を誘った。「政権離脱」の大転換である。山口はなんといけしゃあしゃあと「政策的な意見の違いだけで連立離脱とは、到底考えられない。意見の違う部分があっても知恵を出し、合意形勢に努力する姿勢で臨む」と発言したのだ。筆者はかねてから公明党の変節ぶりを指摘してきた。公明党ほど変わり身の早い政党はないからだ。自社対決時代には「中道政党」として中立を維持。93年に「非自民」の細川政権で与党入りしたが、これで“蜜の味”を覚え、99年に一転した。自民党との連立に踏み切っている。豹変は公明党のお家芸なのだ。それにしても山口は「離脱は到底考えられない」とはよく言ったものだ。永田町では、発言の大変化には創価学会首脳からの“お達し”があったからではないかという見方があるが、その可能性は否定出来ない。加えて山口は、安倍が施政方針演説で初めて「集団的自衛権」の言葉を使ったことなどから、安倍の本気度を感じ取った。そして、固執しすぎると“蜜の味”を手放さなければならなくなると感じたに違いない。事実、連立を公明党が解消しても、衆院では自民党単独で過半数。参院でも維新かみんなとの連携で過半数は達成でき、ねじれは生じないのだ。国会対策上公明党が必要不可欠の存在ではなくなっている構図があるのだ。

 しかし、まだ一つ強力なカードが公明党には残っている。それは選挙協力だ。今や自民党はこの“媚薬”なしには国政選挙を戦えない体になってしまっているのだ。だから幹事長・石破茂が「公明党とは一致点を見いだす努力をしなければならない」と述べているのも、実態を反映している。ここは安倍の本気を受けて石破が公明党をどう説得するかだが、有事法制やインド洋の給油支援活動、自衛隊のイラク派遣などで、結局公明党が妥協に転じたことから、その説得には自信を深めている。説得の重要ポイントは、集団的自衛権が一般的権利であって、使うか使わないかは政策判断であるという点と、地球の裏側まで米軍について行って戦争することではない点の保障であろう。閣議決定はしても、その行使に“歯止め”をかければ、公明党もお家芸の妥協に転ずる可能性がある。説得には時間がかかるが、必ずしも通常国会で達成する必要はあるまい。基本的には年末に予定される日米防衛協力のための指針( ガイドライン)の再改定に間に合わせることが目的であるからだ。
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