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2013-11-07 06:55

テロ続発が習近平体制を揺さぶる

杉浦 正章  政治評論家
 10.28天安門テロに次ぐ山西省の共産党ビル前の爆破テロが意味するものは何か。首謀者が意図するかしないかは別として、紛れもなく11月9日からの中国共産党中央委員会第3回総会(3中全会)に向けて、同党一党独裁体制の脇腹にドスを突きつけたものとなった。中国の高度成長路線維持の限界が民衆の不満暴発制御への限界をもたらし、今月15日には総書記就任1年となる習近平体制を揺るがしかねない構図を露呈しているのだ。トウ小平以来の改革路線が「危険な領域に到達した」と習自らが認めるように、3中全会は社会不安の原因である政治・経済の歪み是正に展望を開けるかどうかの正念場となる。共産党の苦情受け付け窓口である「信訪局」の前で発生したテロ事件は、皮肉にもおりから汚職摘発で共産党規律検査委員会が山西省入りしている最中のことであった。石炭の産地である山西省の経済は、大きな壁に突き当たった高度成長経済路線をそのまま象徴している。中国では石炭資源は国家の財産であり、開発は民間業者に委ねる。そこに賄賂の構図が成り立つ。日本でも高度成長期の初期は1948年の炭鉱国管疑獄などエネルギー源の石炭をめぐる汚職事件が絶えなかったが、山西省も酷似している。

 汚職で採掘権を確保するしか手段がないのだ。しかし高度成長経済は2012年にGDP8%を割り込み、危険水域の7%で推移し始めた。石炭は余り、閉山が相次ぎ、失業者は街にあふれた。不満の目は共産党政権に向けられるようになった。そしてテロとなって暴発したのだ。それにつけても中国における最近の暴動、テロは異常である。目立つものだけを挙げても、6月には福建省で高速バスが炎上して80人が死傷。7月には北京国際空港で手製爆弾の爆発。10月の天安門テロ。そして今回のテロである。全国各地のテロや暴動は、2003年の6万件から11年で18万件と3倍増。民衆の抗議行動は一年間で9万件を超える状況が続いている。国家の治安維持予算は11兆2000億円で、国防費の11兆1100億円を突破している。要するに、疑似内乱状態と言っても過言でない状況となっているのだ。これを前国家主席・胡錦濤の時代は、国民や民族の間でバランスのとれた社会、「和諧社会」をスローガンに掲げ、国内融和政策を進めてきたが、習近平政権が誕生すると、事態は一転した。思想の引き締めが行われ、力による抑圧の時代に移った。外交安保では尖閣問題に象徴される軍事攻勢、内政では抑圧政治へと移行したのだ。

 視点を逆にすれば、それだけ共産党政権が追い詰められてきていることを物語っている。最近習近平政権が全国に通達した禁止令は、(1)共産党政権の社会的基礎を瓦解させること、(2)共産党のメディア管理体制に挑戦することなどの共産党一党独裁への挑戦を露骨に抑圧している。加えて「西側の普遍的な価値観を宣伝することの禁止」まで含めている。共産党一党支配体制に対する批判は一切許容しない姿勢である。天安門テロでウイグル自治区への力での抑圧の動きに出ていることもその実践であろう。しかし、テロの頻発はこの習近平強硬路線の限界を示すものに他ならない。まるで20年に渡る高度成長一点張りの不摂生がたたるかのように、体のあちこちから病気が噴出し始めたのだ。高度成長によるテレビ、ネットの普及で一般大衆は、その高度成長路線の歪みをすぐに分かるようになった。まず貧富の格差が目につく。中国では金持ちが日本人のようにその露出を嫌うのでなく、まるで成金趣味の如く大衆に見せびらかす傾向がある。ますます一般大衆は格差を実感する。役人の腐敗は清朝末期のごとく底知れぬものを見せており、これに加えて環境問題、少数民族問題など社会の矛盾は枚挙にいとまがない。

 まさに3中全会は、こうした課題を習近平体制に突きつけるものとなった。中央委員会は、党員約8500万人を代表する高級幹部ら約370人で構成される。鄧小平の指導下、1978年末の第11期3中全会では歴史的な改革・開放政策への転換が打ち出された。それから35年、習近平は1回目と2回目の中央委員会総会では、人事を固め、体制を築いたが、今回の3回目では、中長期的な政策を示すことになり、鄧小平路線をいかに時代にマッチした経済路線に修正、軟着陸させるかが問われる。習近平にとってはまさに正念場の会議である。習にとって力による封じ込めは一番安易な選択肢であるが、力で一時的にごまかしても、結局は中国経済の限界を打破するわけには行かない。改革案は独占業界改革、土地制度改革、行政管理制度改革、金融システム改革など複雑多岐にわたるが、焦点は簡単だ。いかにして国民の不満を吸収できる政策を打ち出せるかにかかっているのであり、3中全会で“対症療法”を打ち出しても、すぐに馬脚は現れる。不満を外に向けるため、尖閣などで強硬路線を選択すれば、日米中心の国際包囲網は、強化されこそすれ弱まることはない。就任1年目の習近平は抜き差しならぬ立場に置かれているのが実態であろう。
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