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2013-10-18 09:36

2013インドネシアAPECは何を成し遂げたか

山澤 逸平  一橋大学名誉教授
 先週インドネシア・バリ島で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)は、直前に発表されたオバマ米国大統領の欠席の陰に覆われてしまった。日本の新聞報道ではそうであった。APEC自体が、首脳が集まる機会を利用して開かれるTPP交渉国の首脳会議の背後に霞んで、そこでオバマ大統領がTPPの難交渉を主導して年内妥結に持ち込むことが期待されていた。それが主導役の不参加で求心力を失い、APEC報道の目玉が失われてしまったからである。しかしAPECの首脳会議はオバマ大統領抜きでも開かれ、19年前の故スハルト大統領が打ち上げたボゴール宣言達成を謳い上げ、アジア太平洋地域の更なる経済統合への努力持続を誓ったのである。それには米国主導のTPPとASEAN主導のRCEPを並行推進し、APECはその孵卵器の役割を果たすと言明した。ただメディアも、その読者も、APEC自体の役割について正しく理解していないのではないかと懼れる。それを正して、APECの今後の実行を見守るよう呼びかけたい。

 今年のAPEC首脳宣言、閣僚共同声明はどう言っているだろうか。首脳宣言では、冒頭で、活力のあるアジア太平洋地域がボゴール宣言達成に向けて努力したことで世界の成長軸の役割を果たしていると述べ、さらにそれを超えた高次の経済統合FTAAPへ進む決意を繰り返す。そのためには2010年横浜ビジョンで掲げたように、その推進役となる域内のFTAを助けるべく、APECは情報提供、能力構築、政策対話で助けると述べている(首脳宣言、閣僚共同声明ともTPPやRCEPの名称は直接出していない)。閣僚共同声明では実施中のAPECの諸活動をレビューして、2010年中間評価で指摘した「残された分野」に留意して、今後の行動計画としてCTI(貿易投資委員会)年次報告を承認している。CTI報告については報道されなかったが、APECのウェッブサイトから容易にダウンロードできる。CTI報告は2013年中の自由化円滑化活動について報告した上で、CTI傘下の各分野(市場アクセス、サービス、投資、基準認証、知財権、商用移動等)のタスクフォースの現段階を要約したうえで、2014年に向けての行動方針を列挙している。その第4パラグラフでは6月30日にメダンで開催された「ボゴール目標達成に向けてのワークショップ」で指摘されたIAP(個別行動計画)発表プロセスの改善、PSU(政策支援室)の『点検票』への基準指標の追加、サービス・投資・非関税障壁での努力強化の必要等が指摘され、それらが隔年実施のボゴール目標進捗レビューで来年さらに進められるよう指示している。私は昨年、若い仲間と2012年のIAPを吟味して、全21エコノミーのボゴール目標達成度を測り、2020年に向けて努力を強めるべき分野を指摘した論文を発表した。このCTIワークショップに招かれて発表したが、そこでの提言の多くが受け入れられたことで意を強くしている。

 APECは1994年のボゴール宣言の実施で、大阪行動指針に基づいて14分野での自由化円滑化計画に取り組んできた。IAPによる自発的実施方式で、農産物や重工業品等センシティブ分野の自由化などは難しいが、基準認証、税関措置、商用移動、知財権等の分野では、CAP(共同行動計画)での共通制度の新設・普及や能力構築支援等でも貢献して、APECエコノミー間の貿易投資円滑化は着実に進展した。それが冒頭に述べた活力のあるアジア太平洋、世界の成長軸の土台となっている。APECのアジアメンバーを直撃したアジア通貨危機の後で、APECの自由化の遅れに飽き足らないエコノミーが「高水準の自由化」を求める動きが現在のTPP交渉につながっており、それに刺激されたアジア側の動きがASEAN主導のRCEPになっている。それらはAPECとは異なる拘束力を持った協定方式だが、TPPでは多くの円滑化分野を含む。それらの実施には、APECが参加エコノミー間で築き上げてきた円滑化の土台が役立とう。

 TPPの年内妥結は不透明だが、早晩妥結し、それに急かされてRCEPも動きだし、横浜ビジョンの通りにFTAAPへ向けた動きが実現しよう。TPPは自由化円滑化の高いトラック上を、RCEPはそれより低いトラック上を、しかし両方ともAPECが築いた高い自由化円滑化の土台に乗っていよう。そこでわれわれは、TPPとRCEPをFTAAPに収斂させる道を講じる。APECは単に情報提供や政策対話の場を提供するだけではない、アジア太平洋経済共同体の実質的な孵卵器なのである。今年のAPEC首脳宣言はこのように読むべきであり、その意図通りに実行されるよう、来年のIAPが拡充されるか見守ることが、われわれステークホルダーの役割である。
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