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2013-10-08 17:54

新華社が「消費増税」を称賛する真の理由

田村 秀男  ジャーナリスト
 中国国営の新華社通信は日本の消費増税発表を受けると、ただちに「国際社会の関心に答えた」と称賛する記事を流した。 日本の増税はなぜ「国際社会」にとって喜ばしいのか。デフレ下での消費増税はデフレを加速する。安倍晋三首相はそう懸念しながら、合わせて打つ経済対策効果に望みをかけて、来年4月から消費税率を8%に引き上げると発表した。増税分と、円安やエネルギーコストの上昇を合わせると3~4%も一挙に物価が上がり、需要が落ちる。毎年のしかかる家計負担増8兆1000億円を、復興特別法人税の前倒し廃止など5兆円超の対策でカバーできるはずはない。法人税率引き下げで、企業の税負担が減っても、企業がフトコロにした資金は海外投資資金に回る。企業が国内の雇用や賃金を増やすのは無理というものだ。

 需要が減れば生産が減る。その分、個人所得も企業収益も減り、国庫に入るカネも減る。1997年度の消費増税の場合、消費税収増は所得税と法人税の収入減をはるかに下回り、財政収支を悪化させてきた。財務官僚は失敗と認めるどころか、さらなる増税のチャンスと欣喜雀躍した。財務官僚ばかりではない。中国と韓国がそうだ。日本のデフレは円高を引き起こす。デフレはモノに比べてカネの価値が上がるからだ。これまでの「15年デフレ」の間、円相場はデフレ圧力が高まるたびに上昇してきた。円高局面で景気拡大に成功したのは中国と韓国である。中国の場合、通貨、人民元をドルに連動させているので、円高はすなわち人民元安となる。円高・ドル安時には日本からの対中投資は増えるし、日本企業は中国の製造拠点からの輸出を増やす。5年前のリーマン・ショック後、日本では円高が加速して生産と輸出が大きく落ち込んだが、中国の輸出の回復は早かった。

 ところが、円安・ドル高となると、中国は一転して苦しくなる。ことし前半、日銀の「異次元緩和」効果で円安になると、中国の過剰生産がひどくなってきた。中国の鉄道貨物輸送量はことし、前年を下回り続けている。韓国経済も円相場に左右される。円高・ウォン安のとき、サムスンなど韓国企業は収益と輸出を伸ばし、株価も上昇する。ところがことし円安になった途端、すべてが逆になった。外国資金に依存する韓国経済は、日銀のような異次元緩和政策をとれない。金利の大幅引き下げに踏み切ると、外資が逃げ出しかねないからだ。

 デフレ効果がはっきりしている消費増税は円高要因だが、米連邦準備制度理事会(FRB)のドル札を大量に刷る量的緩和(QE)政策と併せて考える必要がある。QEの縮小は円安要因である。FRBは今回見合わせたが、来年にはQE縮小に踏み切る公算が大きい。そのタイミングで日本が消費増税を実施すれば、円の押し下げ圧力はかなり相殺されるが、デフレが進行すれば、以前のように円高基調が定着するだろう。増税してまでデフレ・円高にするのはよその誰のせいではない。中韓がそこでほくそ笑むのは、日本の自壊が読み取れるからだ。
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