国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2006-09-15 08:30

連載投稿(2)東アジア金融協力で日本の金融力を高めよ

上辻 宏  大学院生
 しかしながら、いくら抜群の政治力、科学技術力、魅力的なコンテンツ、世界一の市場を誇る基軸通貨国アメリカとはいえ、永久に借り入れを増加させることはできない。今のところ、投資家はアメリカに貸したのなら安心だと考えているが、その市場の信任がいつまで続くか誰にもわからない。現状は非安定的なのである。問題はいかに軟着陸させるかという、出口戦略である。さもなければ、現状のファイナンス・システムの急激な崩壊により、為替レートによる調整が起こるであろう。ファイナンシャルタイムス によると、2005年にカリフォルニア大学のRogoff教授とMaurice Obsfeld教授は、アメリカの貿易赤字をゼロにするには33%の減価、半分にするためには17%の減価が必要と予測している。さらに、両教授は調整が短期間で起こった場合、さらなる減価が必要と指摘している。もし、対ドル円レートが急上昇した場合、外貨準備は主にドルで保有されているので、わが国政府は大きな評価損失を抱える。さらに民間の対外投資等を考慮すると、どれほどの富がわが国から失われるか想像がつかない。さらには、貿易決済通貨であるドルの急落で貿易・投資にも悪影響が出るだろう。

 こういったグローバル・インバランスの日本への悪影響を軽減できるのが東アジアでの金融協力である。現在、2国間通貨スワップ協定のネットワークの強化、アジア・ボンド・マーケットの育成が積極的に勧められているが、更に、通貨インデックスの導入や、域内通貨間の為替レート安定化スキームの導入が検討されている。もし、東アジアでの金融協力がすすみアジア・ボンド・マーケットが大きく育てば、ドルに集中している外貨準備の分散先となるだろう。通貨バスケット・インデックスが信任を得、東アジア諸国間の通貨安定化スキームが稼動すれば、東京・上海・シンガポールなどの金融センターで発行される東アジア各国のローカル通貨建てソブリン債や域内通貨バスケット連動債、たとえばADBが試算を始めるというAsian Currency Unite (ACU)と連動したACU連動インデックス債などが、オルタナティヴとして日本の選択肢を広げると考える。さらに、投資・貿易面でも、東アジア域内で通貨安定化のスキームが実現できた場合、東アジア域内での貿易・投資はドルではなく、域内通貨もしくは通貨バスケットで行われるだろうから、貿易・投資の面においても急激なドルの減価の影響を避けることができるだろう。さらには、こういった金融イノベーションのチャンスが、一度は失敗した東京マーケットをロンドンと肩を並べる国際金センターに押し上げる新たなチャンスになるかもしれない。

 東アジアでの金融協力は、域内諸国に新たな通貨危機の再発を防ぐ力をもたらすのみならず、グローバル・インバランスの解消に伴う大幅なドルの減価に対処するツールを日本にもたらす。さらには種々多様な金融商品を作り出す機会を生み出し、日本の金融力を高める絶好の機会となるだろう。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会