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2006-09-07 12:42

日本人同士で日本人の思惑だけで議論しても始まらない

山澤逸平  国際大学学長
 2005年12月、東アジア共同体をめぐる議論はひとつの頂点に達した。マレーシアの首都クアラルンプールでASEAN首脳会議が開かれた際に、ASEAN以外の主要国も招いた一連の拡大首脳会議が開かれたが、ASEAN+3サミットと東アジア・サミットのふたつが頂点であった。私は東アジア共同体をいかに構築するかについて、幅広い長期の視点を提供したい。

 日本での東アジア共同体論と構築の戦略はすでに活発に論じられている。東アジア共同体評議会の政策報告書『東アジア共同体構想の現状、背景と日本の国家戦略』(2005年8月)や経団連の提言(2005年11月)等はその代表的なものである。東アジア共同体の構築には強い経済合理性が存在し、日本では広く共有されている。東アジアの奇跡の高成長を通じて深化した東アジア諸国間の相互依存性の基盤の上に、1997-98年の経済危機の再発を防いで成長を持続させるためには、東アジア大の地域協力を強化し、制度化することが必要である。さらに日本企業には、少子高齢化の日本国内のみでは存続できないとして、東アジア・ビジネス圏構築を望む声が高い。しかし日本人同士で議論を集約するだけでは、実現の展望が開けないことに気づかなければならない。

 他方、中、韓、ASEANそれぞれで異なった期待と思惑を抱いている。中国やASEANはまずアジアとしてのアイデンティティーを主張している。ASEANは経済格差ゆえに、与えるより受けることへの期待が大きい。他方中国以外では中国脅威論が底にあること、中国・韓国にはなお対日不信感が強く残っていることは否定できない。共同体構築には経済合理性だけでなく、政治・社会・文化的要素が強く働くことはヨーロッパ、北米でも見てきている。これらの思惑の違いはいろいろな障壁として共同体構築を妨げる。欧米のオブザーバーにはそれが見えており、東アジア共同体への道遠しの批判となる。異なる期待をいかに集約し、さまざまな障壁をいかに乗り越えるか、を議論する必要がある。日本人同士で、日本人の思惑だけで議論しても仕方がないというゆえんである。

 私は東アジア共同体論で新しい研究・教育アプローチを提案したい。この問題については国境を越え、世代を越えての議論を起こす必要がある。東アジア共同体の構築にはなお20-30年を要する。私たちの世代がそれを見届けることはないであろう。それなら若い世代の人々にわれわれの夢と目標を伝え、正しい議論の方向を植え付けておかなければならない。今われわれがやるべきことは、東アジアの未来を担う多国籍の若い人々を巻き込むことである。これはわれわれ大学人の利点であり、責務でもある。

 私の国際大学は国際関係・開発論と国際経営学の修士課程のみのプロフェショナル・スクールだが、アジア各国から学生が参加し、平均年齢も29歳と成熟しており、修了後帰国して、政府や企業に就職する人も多い。国際大学ではプラットフォーム・セミナーという問題解決型アプローチのカリキュラムを今年から開始したが、私はそのひとつに「東アジア共同体研究」を取り上げ、学生との共同研究に取り組んでいる。これにはインターネットを活用してすでに帰国している修了生をも取り組む。それぞれ自国の理念と期待を説明させ、相手のそれに耳を傾け、相違を乗り越える道を模索させる。それができるようになった若い人々が、東アジア共同体を実現してくれると確信している。
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