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2013-03-25 06:49

「安倍長期政権」の予感

杉浦 正章  政治評論家
 首相・安倍晋三の「野党は10年待て」発言が、早くも自民党政権の“増長の兆し”を示しているが、まだ当分その反動が表だって生じる気配にはない。総じて、政権は破竹の勢いである。民主党は脳しんとうのまま、意識は回復しないかもしれない。野党は馬糞の川流れで、ばらばらである。マスコミは朝日新聞などが隙あらばと狙っているが、経済が上り調子の政権にはその隙がない。石の上にも3年とはよく言った。臥薪嘗胆3年3か月の歳月が長期政権への基盤を醸成していたのだ。安倍は「運も実力のうち」と述べているが、たしかにアベノミクスは大当たりに当たった。なぜ当たったかといえば、国民が20年ものデフレに飽き飽きしていたからだ。とりわけ3年3か月の民主党政権は経済への無知蒙昧(もうまい)ぶりをさらけだし、極左政党でも考える“景気の好転”などという文字は、自らの辞書から消去してしまっていた。そこに安倍が一年間かけて準備をした景気対策を打ち出したのだ。あの懐かしい自民党の景気対策だ。市場には干天の慈雨のごとくに映った。「嘘でもいい。“上げ”が欲しい」と市場は飛び付いた。そして嘘から出た誠のように現状が推移しているのだ。

 民主党の元官房長官・枝野幸男をして「われわれなりに蓄積をしてきた部分はあるけれども、自民党の蓄積とは比べものにならない。自民党はうまい。」と驚嘆したのももっともだ。経済に加えて、安倍がラッキーなのは、悪役を演ずる“外国”の存在である。国家主席に就任した習近平は、就任前から外なる敵を日本に設定して軍部を引き締める動きを展開した。愚昧の見本である右翼・石原慎太郎が火をつけた結果、尖閣問題をフルに活用させてしまったのだ。習にしてみれば、汚職蔓延、貧富の格差拡大、国民の不満爆発寸前の共産党一党独裁体制の“危機”を救ってくれる唯一無二の手段が、尖閣問題であったのだ。こうして主席となった習は、今後ことあるごとに国内向けに「尖閣カード」を切り札に使うだろう。しかし、本格戦争には乗り出さない。現在の中国の海軍力では、自衛隊を相手にしただけでも壊滅的打撃を食らうからだ。一時的にせよ負ければ、それこそ体制の危機が訪れる。だから尖閣問題は「叫べども戦わず」が基本なのだ。

 この習の基本姿勢は、保守化路線をひた走る安倍にとってはすべてプラスに“逆用”できる。減少し続けた自衛隊予算の増加、憲法改正、集団的自衛権の行使、普天間基地の辺野古への移転など、重要懸案にはことごとくプラスに働くのだ。そして破竹の勢いが一番顕著な部分は、支持率になって現れる。内閣支持率70%だけでも大変なものだが、自民党支持率が40%というのは驚がくの数字である。いうまでもなく、アベノミクスと尖閣問題が国民世論にプラスの反映をもたらしていることになる。“嫌な外国”の存在が国民の憎悪感を外部に向かわせているのだ。問題は、経済と外交・安保におけるこのペースが長続きするかどうかだが、予見しうる将来にわたって崩壊する芽は生じていない。民主党政権があの体たらくで、首相を代えながらも3年3か月持ったのは、最初に取った308議席の“貯金”があったからだ。過去の自民党政権では、沖縄返還選挙での佐藤栄作、死んだふり解散の中曽根康弘、郵政解散の小泉純一郎など、いずれも300議席前後を取った宰相が、長期政権を達成している。安倍は294議席を獲得した。政権維持にとっての決定的要素は「300議席前後」がキーワードになると言ってもよい。加えて、かつて安倍が自ら作った衆参ねじれを7月の参院選挙で解消すれば、破竹の勢いは継続することになる。党内的にも「安倍降ろし」は生じようがない。
 
 さらに、民主党政権が反面教師になって、国民のガバナビリティ(被統治能力)を向上させた側面が大きい。この政党を選べば、このように国民生活に跳ね返るという政治の本質を国民が“学習”したのだ。かねてから国民は、馬鹿な民放ニュース番組、タブロイド版や週刊誌などへの対応はそれなりに軽蔑を伴った目で一段と軽く見るようにはなっている。しかし、今回の学習効果は、朝日新聞などもろ手を挙げて民主党政権を礼賛、政権交代を煽った“高級メディア”に対しても発揮される傾向が大きいと見る。原発反対の朝日の主張が、選挙結果にまるで反映せず惨憺たる結果に終わったことが顕著に物語る。国民の政治を見る目が養われれば、安易な政権交代は控える流れが主流となり、安倍政権にはプラスに作用するのだ。いま一番危険なのは、冒頭指摘したように政権の“慢心”だけであろう。
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