国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-03-08 05:47

民主質問、“3者凡退”の様相

杉浦 正章  政治評論家
 「居丈高だ」「いや傲慢だ」と最初から感情論にまで発展、行く先が案ぜられる論戦だった。いよいよ衆院予算委員会を舞台に通常国会の本格論戦が3月7日スタートを切った。民主党は代表、幹事長、前副総理と“オールスターキャスト”を並べ、経済、外交・安保、原発などで首相・安倍晋三を追及した。しかし、総選挙圧勝を背景にした安倍の“逆襲”に遭い、まるで“三者凡退”の様相であった。民主党は総選挙大敗の“脳しんとう”からまだ脱却できておらず、安倍のクリアカット答弁が目立ったが、クリア過ぎて今後逆手を取られる危険性を感じた。まず最初に質問に立った代表・海江田万里は、経済評論家だけあって、アベノミクスの危険性を追及、「デフレの脱却につながらない」と断じた。これに対して、安倍は「経済はまさに変わりつつある。民主党は残念ながら3年間やってもできなかったが、我々は2か月で変えようとしている」と反撃。おりから株価は4年5か月ぶりの高水準に達しており、確かに民主党政権が過去3年3か月の間自らの政策で株価を引き上げたことは一度もない。海江田はテレビではよくしゃべるが、方向性に疑問があるというのが定評。安倍との経済論争は「格」が違う感じを与えた。3人の中では一番お粗末だった。

 次いで立ったのが、民主党若手のホープ、幹事長・細野豪志だ。若手のホープといっても、東電事故でマスコミが作った虚像の可能性があるとかねてから思っていたが、勢いが余った感じが濃厚だった。定数是正問題を取り上げて、大声を張り上げて安倍に噛みついて。「定数是正を今国会でやることを確約せよ。逃げないでいただきたい」と迫った。安倍は「ずいぶんと居丈高な発言だが、0増5減をやらなかったのは民主党ではないか。はっきり言っておく」と切り返した。カチンときたか、細野は「私のことを『なんだ若造が』ということでしょうが、今の発言は傲慢だ」と反論、「居丈高対傲慢」が火花を散らす結果となった。確かに0増5減をたなざらしにしたのは民主党であり、あまり肩を張って言い募ることができる問題ではない。前副総理・岡田克也は、野田政権が尖閣の国有化後に海上自衛隊に15カイリくらい離れて「遠くで警備せよ」と命じたといわれる問題を取り上げた。安倍が午前中に「過度に中国とのあつれきを恐れるあまり、当然すべき警戒、警備に極度の縛りをかけた」と批判したことについて、「何を根拠にしているのか。言いがかりだ」と食いついた。しかし、安倍は「確信しているから言った。事実を述べている」と反論した。具体的根拠は言わなかったが、防衛庁からの報告に基づいていることを明らかにした。岡田が知らなかっただけのことであろう。

 さらに岡田は、安倍が「民主党政権が日米安保体制を毀損した」と繰り返している点について、「民主党政権はでたらめだというのは、わが党だけでなく、アメリカに対しても失礼だ」と抗議した。これに対して安倍は「普天間問題では『最低でも県外』と言い、『トラスト・ミー』と言い、実行できずに致命傷を与えたのは事実だ」と指摘した。民主党政権最大の醜態「鳩山発言」を逆手に取られては、さすがの岡田も反論に窮した。安倍は、岡田に対して2度にわたって総選挙敗北の原因に言及した。日米関係では「国民がこういう政権に任せられないという選挙結果を招いた」と述べたかと思えば、原発に関しては「選挙で国民は民主党は退場せよ。自民党がやれという判断を下した。この民意は重たい」と発言した。

 その根底の意識には、「敗軍の将には兵を語らせず」とする“勝者の論理”がみられる。アベノミクスにせよ、外交・安保問題にせよ、政権発足早々からことごとく物事が順調に運んでいる事への自信の現れであろう。だが、首相の発言が論理的にクリアカット過ぎると、必ず野党が逆手をとるチャンスが多くなる。昔長期政権が続いた佐藤栄作の答弁は、何を言っているのかまるで判じ物のような言葉の羅列であった。ところが、野党は揚げ足の取りようがなく、追及に手こずった。安倍の発言は政権が快進撃を続けているからこそ成り立つ答弁方式ではないか。野党に対して噛みつきすぎるのも、必ず報復が待っている。予算委冒頭質問から見る限り、安倍は国会論戦をはやくも対決ムードに導きそうな気配だ。安倍は、マスコミも議会も3か月のハネムーン後は手のひらを返したように厳しくなることを覚えておいた方がいい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会