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2013-03-05 07:00

 自民は拙速に“定数減”でお茶を濁すな

杉浦 正章  政治評論家
 国政の根幹をなす衆院選挙制度改革が党利党略で決められそうな情勢となって来た。自民党幹事長・石破茂が今月中旬までに「夜を徹して」決めると言い出したのだ。民主党幹事長・細野豪志に問い詰められての発言だが、あまりにも拙速である。自民党案は比例区の30議席削減で現行制度を維持しようというもののようだが、これでは民意を反映しない「死に票」を出す制度の重大な欠陥は是正されない。やはり与野党は、日本的選挙制度である中選挙区制も含めた制度改革を目指すべきであり、安倍は早期に第九次選挙制度審議会を発足させ、制度問題に取り組むべきだろう。昨年末の解散を巡る駆け引きで、選挙制度改革は定数削減と絡んで重要テーマとして浮上した。とりあえず定数は「0増5減」を成立させたものの、総選挙には間に合わず、制度改革は今国会に持ち越された。これが自公民3党合意の根幹だ。民主党はかねてから比例区の80議席削減を主張しており、自民党内では30議席で妥協する案が有力となって来ている。しかし党内には反対論も根強く、これをクリアするのは容易ではない。

 3日のNHKでも細野は石破に約束順守を求めたが、これはひたすら3党合意を盾に取った自民党を追い詰めるための術策であり、本質は制度改革の名を借りた党利党略である。これに理路整然としか対応できない傾向にある石破が乗せられた色彩が濃厚だが、二人とも大局を見ていない。いま政治に必要とされているのは、小選挙区制度の弊害からいかに脱却するかであって、議席減などではない。両党とも「消費税を実行する代わりに、自ら身を切るべきだ」という、キャッチ・フレーズにとらわれているが、議席を減らして出てくるメリットは30人削減でたかだか30億円だ。ことは「30億円出すから消費税を認めて欲しい」という説得材料に使うべき問題なのか。両党とも根本的部分でピントが外れているとしか思えない。翻って、選挙制度の現状を見れば、総選挙の度に小選挙区比例代表制の弊害が著しく現れている。今回も小選挙区における自民党の得票率は43%であり、これが294議席と、全議席の5分の3を占める結果を招いた。民意を反映しない死に票は小選挙区で3730万票に達し、全体の56%に相当する。民主党が躍進した前回2009年の選挙でも、所を変えて全く同様の傾向が見られた。

 明らかに選挙制度上の欠陥であり、比例区の議員定数削減の問題とは性格を異にしている。この結果、選挙の度ににチルドレンが多数当選して、その数が政治を左右してきたことでもある。何も新人議員が悪いわけではないが、小沢チルドレンが象徴する、政治の停滞と迷走は度し難いものがあった。今回も自民党は115人の新人議員を抱えて、その“教育”に腐心しており、政治の能率は低下する一方である。小選挙区制になって、政治、外交、安保のプロフェッショナルとも言うべき議員がいなくなった損失は大きいのだ。政治主導が薄れ、“官僚主導”がはびこる根本原因がこれだ。また議員が小粒になってしまった。地裁が近く定数訴訟で違憲判断を下す可能性が高いことも“拙速”の理由となっている。もちろん司法の判断は判断として参考にすべきであるが、国権の最高機関の制度に関する問題が裁判結果で拙速に左右されるべきではない。筆者は、日本的政治風土の中では小選挙区制よりも、より民意を反映できる中選挙区制が適切であると思う。よく2大政党制で政権交代ができる制度がよいと言われるが、戦後の自民党の長期政権が民主党に政党の座を譲って大失政に次ぐ大失政を繰り返したことは、紛れもない制度上の欠陥を物語っている。自民党政権は事実上「派閥」という党内の与野党の間で政権交代が行われたからこそ、長期に続いたのだ。

 戦前も1919年に原敬が小選挙区制を導入したが、6年でつぶれ、中選挙区制となった。この結果政友会と民政党との間で2大政党制による政権交代が行われるようになった。中選挙区の下で2大政党制が実現しているのだ。小選挙区制導入で主要な役割を果たした河野洋平が「導入は失敗だった。不明を恥じる」と述べているが、いまさら不明を恥じてもらっても、こればかりは「取り返しがつかないことをしてくれた」と言うしかない。導入した議員らの責任は重い。 公明党など中小政党も拙速な制度改革に反対しており、幸いにも総選挙が終わったばかりで、次の選挙までには時間もある。ここはこれまでやってきたように民間有識者で構成する選挙制度審議会を早期に発足させて、安倍が制度改革を諮問すべきであろう。まさに選挙制度は国家百年の計であり、議論は尽くされなければならない。自民党も民主党もその場しのぎの“姑息(こそく)な改革案”など俎上に載せるべきではない。
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