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2013-02-25 07:01

日米首脳会談は、「アベのホット」Vs「オバマのクール」

杉浦 正章  政治評論家
 「日米同盟の信頼と強い絆は完全に復活した」と首相・安倍晋三は高揚して胸を張った。この一言が言いたくて訪米して、日米首脳会談に臨んだに違いない。しかし筆者に言わせれば、この言葉は言わずもがなであった。なぜなら安倍の意気込みばかりが目立って、内外記者会見に同席したオバマは終始クール。そっぽを向いている場面も目立った。オバマの発言も、官僚作文棒読みの「日米同盟はアジア太平洋地域にとって中心的な礎だ」。嬉しくも何ともない。当たり前だからだ。これを見たのだろう、中国国営新華社電は「安倍総理大臣はアメリカで『冷たい処遇』を受けた」と報じた。皮相的かつ我田引水的宣伝記事だが、そう見られても無理もない側面がある。もちろん、日米の場合、首脳会談は晩餐会などは不要だし、これがないから冷たいと報じた民放テレビなどは、新華社に勝るとも劣らぬ上っ面報道だ。中国は人民大会堂での豪華な晩餐会で、メシさえ食わせれば良いと思っているようだが、この古い手法こそ飽きられていることに気付かない。実務面では最近になく成果を上げた首脳会談であることは確かだ。しかし、日米双方の発表をみても、オバマの発言はほとんどない。全くないのが尖閣絡みでの対中批判だ。記者団から尖閣問題での感想を求められても、なんらコメントをせず、無視した。会談ではもっぱら安倍が大統領への“報告会”の如くに、「あれもします」「これもします」と言いまくった。「集団的自衛権について検討を始めた」「普天間飛行場の辺野古への移転を早期に進める」「自衛隊の予算を増額する」「原発ゼロはゼロベースで見直す」と言った具合だ。しかしオバマからの発言は出てこない。

 政府筋は、対中関係では「相当突っ込んだやりとりがあった」と述べている。なぜ表に出せないのかと言えば、「機微に渡る他国の話しを出せるわけがない」のだそうだ。恐らく習近平の評価・分析や、レーダー照射が習の指示によるものなのかどうか、また、習に武力衝突の意志があるかどうか、軍部を押さえているかどうかなど、“機微に渡る”情報交換があったのだろう。場合によっては、オバマが安倍に対して、武力衝突は何としてでも回避するように“クギを刺す”場面があってもおかしくない。まるで「アベのホット」に対して「オバマのクール」だ。この“温度差”はなぜ生じたのか。それは極東情勢への認識の差と日本の政権交代に対する思いの“落差”がある。オバマは、基本的には尖閣を巡る日中の武力衝突を全く望んではいない。むしろ日中が激突して、アメリカが日米安保条約を理由に戦争に引き込まれる可能性があることを懸念しているのだ。安保条約は、中国の尖閣占拠などの事態があれば間違いなく発動せざるを得ない。日本を見捨てれば、アメリカの威信は地に落ち、安保条約は破棄に至る。そんな事態に至ることは極力回避したいのだ。

 しかし、対中けん制のためには、米国はかっての日英同盟のイギリスのように“極東の番犬”として存在した方がよい。新華社電が“安倍冷遇”と報じた記事は稚拙だが、中で1行だけ光る分析がある。それは「中日関係を“制御可能な対立状態”にしておくことが米国の最高の利益だ」という部分だ。したがって、オバマは自らの人気維持のためには、かってニクソンがやったように、日本の頭越しの訪中で新国家主席となった習近平と会談するような構想を描いていてもおかしくない。「オバマのクール」からは、そこまで窺える側面がある。どうも怪しいのだ。もう一つの日本の政権交代への思いの“落差”とは、安倍が民主党政権は日米安保関係を毀損したと判断しているのに対して、オバマにその認識が薄いことだ。日本国内にいれば確かに民主党政権は安保体制を毀損していることがひしひしと分かる。その証拠には、毀損の間隙を縫うように中国、ロシア、韓国が領土での攻勢を一斉に仕掛けてきている。日米関係がゆるんだと見れば、ハイエナのように隙を窺うのが隣国であり、国際関係である。その現実をオバマは知るよしもない。もともと日本にはそれほどの関心がないから、実感が湧かないのだ。おまけに首相・野田佳彦との関係は悪くはなかった。だから安倍が、政権交代によって毀損された日米関係が「復活した」と最大限の表現をしても、そっぽを向いていたのだ。オバマにしてみれば就任以来入れ代わり立ち代わり5人目の首相だ。いいかげんうんざりしたと思っても、それは大統領としておくびにも出すべきではないが、ちらりと出してしまった感がある。

 加えて外相・岸田文男が、新国務相・ケリーとの会談で、1月にクリントンが尖閣問題で「日本の施政権を害そうとする、いかなる一方的な行為にも反対する」と表明したことにわざわざ“謝意”を示したのはなぜか。明らかに、上院議員時代から親中国路線を取っているケリーに“ダメ押しの牽制球”を投げざるを得なかったことを意味する。要するに、ケリーが米中融和と関係発展路線を取ることが目に見えているからだ。焦点のTPPは、筆者の予想がピタリと当たった。合い言葉の「ネゴシエート」「センシティブ」「オン・ザ・テーブル」は、すべて日本語訳で「交渉を先行」「重要品目がある事を確認」「全ての品目を交渉のテーブルに乗せる」と書いたとおりとなった。異例の共同声明まで出したが、これは2011年の野田・オバマ会談で普天間移設問題で「言った」「言わない」の食い違いが生じたことに懲りた結果だろう。共同声明を出して“錦の御旗”を掲げなければ、安倍の党内説得と国会乗り切りは危うくなる。それにしても民主党政権時代の外務官僚はサボタージュだったのだろうか。手のひらを返したように官僚組織が働いた。政治家と官僚のコラボレーションの結果が共同声明となって、TPPを動かすことになった。民主党の“政治主導”をいかに官僚が嫌っていたかを物語るものだ。
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