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2013-01-25 11:43

インフレ目標のゴールは所得と雇用の増大

田村 秀男  ジャーナリスト
 年末に某テレビ局の討論番組を見ていたら、安倍晋三首相の要請を受けて日銀が検討している2%の「インフレ目標」を取り上げ、そこそこの経済知識を持っているはずの論者たちが雑談さながらに「物価が上がったら大変だ」と騒いでいる。年始に選挙区に帰ると、主婦たちから「センセイッ、物価を2%も上げるつもりなの」と詰問された与党議員もいる。物価下落慣れした世間の反応はそんなものかもしれないが、誤解があるようだ。

 世界の主要中央銀行が採用しているインフレ目標とは物価水準が一定程度まで上がれば、今度は金利の引き上げなどによって物価上昇を押さえ込むための指標である。米欧と日本の違いは、米欧の物価上昇率はほぼ一貫してプラスであるのに対し、日本はマイナスの状態が14年以上も続く慢性デフレにあることだ。物価の下がり具合は極めて緩やかで、年率平均で物価は0.4%程度、1998年以降の14年間で5%程度しか下がっていない。

 ところが、名目国内総生産(GDP)は約1割、サラリーマンの収入は実に15%以上も縮小した。経済とは主に消費と投資で成り立つが、物価がわずかずつでも下がり続ける状況の中では、消費者はショッピングを控え、企業は利益が下がると恐れて設備投資しない。その結果、カネは使われずに銀行に滞留し、経済活動がガタンと落ちる。たとえ、デフレの速度が緩やかでも、景気のほうははるかに大きい速度で落ち込む「負の乗数効果」がある。この日本をみて、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は物価が下がるようになってからでは遅いということで、お札を大量に刷る「量的緩和」に踏み切り、さらにインフレ目標を1年前に設定した。それでも足りないとみて、今度は失業率が6.5%改善するまで緩和政策を続けると、ひと月前に決めた。FRBは景気をよくして雇用を改善させることを優先させている。

 日銀にはそんな意識があるようには思えない。白川方明総裁は「金融政策だけではデフレから脱出できない」という趣旨の発言を繰り返し、量的緩和の効果を否定する。市場から国債を大量に買い上げると、日銀資金で財政を賄う「マネタイゼーション」になると言い続け、小出しの緩和策しかとってこなかった。そんな具合だから、日銀首脳部はインフレ目標を示すとしても、目標達成の責任からいかに逃げるかという一点に集中して鳩首協議しているに違いない。単に物価を上げるためだけのインフレ目標なら、消費税率引き上げだけで済む。現行税率5%を8%に引き上げるだけで、2.8%以上、消費者物価が上がるので、楽々と達成できる。国民の所得や雇用を増やすことをゴールとしない限り、インフレ目標は無意味である。安倍政権はその肝心な点をしっかりと踏まえ、日銀にだまされないようにしてほしい。
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