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2012-11-15 07:02

民主落城の野田“電撃自滅解散”

杉浦 正章  政治評論家
 押している方がつんのめったような電撃的な解散の表明であった。総選挙惨敗覚悟の自滅解散だ。首相・野田佳彦による11月14日の決意表明により、16日解散で来月16日の選挙が確定した。選挙情勢をあえて分析すれば、自民党が第一党になることは確実で、公明党などとの連立で、政権に就く流れだ。2009年9月16日に発足した民主党政権は、内政・外交に混迷をもたらした迷走の末、3年3か月で終止符を打つ。新政権は年内に最終的予算編成に着手、通常国会に臨む。首相がいったん解散の腹を固めると、これほど強くなって主導権を握れるものなのだ。歌舞伎で、口論の末に、両方掛け合いで、「さあ、さあ、さあ」と調子を高めていくせりふを「繰り上げ」と言う。ところが党首討論では野田が一方的に「さあ、さあ」というのに、自民党総裁・安倍晋三は狼狽(ろうばい)して、オタオタ状態だった。無理もない。野田は、直前の国民新党代表・自見庄三郎との会談でも「『解散する』などということは申し上げるつもりはない」と大うそをついていたからだ。安倍はつんのめって、事態が理解できず、野田が解散日程を具体的に提示すると言っているのに、「私の質問に答えていない」とピントが狂った反応。

 野田が通常国会での定数削減と引き替えに「16日解散」を口に出しても、「今、私と野田さんだけで決めていいはずはない。議論をすり替えている」と、まるで見当違い。自民党席からメモが入って、野田が子供にも分かる表現で説明して、やっと理解できて、「それは約束ですね、よろしいですね、よろしいですね」とよろけんばかりの喜び方だった。乾坤一擲の場面では、野田の方が数段上であった。副総理・岡田克也から「政治家の器の大小がはっきりした」と言われてしまっては、どうしようもない。野田が幹事長・輿石東に漏らしたのは、党首討論直前であり、輿石をいかに信用していないかの証左だ。閣僚席を観察すれば、岡田だけは知っていた感じだが、前原誠司は知らされていなかった。固唾をのんで聞いていた顔を観察するだけで分かる事だ。事実上「1人の決断」であったに違いない。野田はうそつき呼ばわりが一番こたえていたとみえて、討論でも小学生時代の秘話をあえて明らかにしている。それは成績が悪い通知表を父親が怒るかと思ったら、褒められたというエピソードだ。通知表の生活態度の欄には「野田君は正直な上に馬鹿がつく」と書いてあったというのだ。恐らく野田はこれが一番言いたかったことに違いない。

 こうして電撃解散となったが、実態は筆者が1年前から一切ぶれずに言い続けてきた話し合い解散そのものである。政策上の3条件で話がついて、解散を断行するということは、誰が見ても話し合い解散だ。野田がここに来て解散に踏み切った背景だが、「うそつき批判の解消」に加えて、大きな理由が2つある。1つは党内の「野田降ろし」。もう一つは第3極対策だ。輿石の小沢一郎とつるんだ動きや、公然と野田降ろしが表面化する事態をこのまま放置すれば、野田にとって事態は悪化の一途をたどる。離党者は続出して、不信任案も可決し得る事態となる。そうなれば野党は手っ取り早く不信任可決に動く可能性が高い。解散反対閣僚も辞任するだろう。解散をめぐって多数派工作が始まれば、野田は手足を縛られてしまうのだ。これには電撃解散で切り返すしか手はない。加えて18日からは東南アジア諸国連合(ASEAN)会議でのカンボジア行きが決まっており、解散しなければ留守中に“クーデター”となるのは必至だ。切り返した結果は、党内反対派がひるんだ。ひるんでオタオタしている間にもう明日は解散となる。選挙になれば、議員は選挙区対策でよほどの馬鹿以外は離党など本当はしていられないのだ。離党したければ何人でも勝手に出て行けというのが野田の解散断行決断だ。もっとも議員バッジがなくなった者が離党しても、もうマスコミもはやさない。鳩山由紀夫が離党すれば、こんなにすっきりすることもない。要するに民主党政権はもう“落城”なのだ。

 もう一つは第3極だ。第3極などと言う言葉は、マスコミが勝手に作った言葉であり、まだ「3、4、5、6極 」と言った方がいい。民主党議席への食い込みを狙う日本維新の会は、まだ全候補者を決めるに到らず、石原新党との候補者調整はおろか、政策調整すら難航している。この虚を突くのが電撃解散の狙いでもあるのだ。加えて今回の選挙ほど小党が乱立する例は珍しい。15党がしのぎを削るわけだから、自ずと票も分散する。新党、小政党の態勢が整わないうちの方が、民主党にとって負けが少ないのだ。こうして、1票の格差是正の「0増5減」は実現しても、区割りと周知は間に合わず、違憲状態のままの選挙に突入する。選挙後に最高裁が無効判決を出しても、出す方の状況判断が問われる。有権者の信託を得た新政権が出来、政策の歯車が回り、内政・外交が進展している1年か、2年後に、無効判決を出しても、いたずらに国政を混乱させるだけだ。ここは衆院の意向として「0増5減」が実現して、次々回の改正に間に合えば十分だ。最高裁も観念するしかない。それにつけても、小沢の党首討論での精彩の無さは異常だ。愚にもつかないご託を並べて質問時間を稼いでいるようにしか見えなかった。小沢のお通夜のような質問は、いよいよ終わりの始まりなのだろう。
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