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2012-11-04 13:17

危殆に瀕する東アジア地域協力の「相互信頼」

石垣 泰司  アジアアフリカ法律諮問委員会委員
 8月26~28日に北京で開催された東アジア研究所連合(Network of East Asian Thinktanks, or NEAT)総会においては、同組織発足10周年の節目を迎え、そのPrime-moverを自負するホスト国中国が重要議題の1つとして提起した東アジア地域協力を進める上での「相互信頼」の問題が活発に論議された。その際、「相互信頼」の重要性について参加国ASEAN+3の代表者間で完全なコンセンサスがあったことは云うまでもない。

 上記討議に際し日本側ディスカッサントとして発言の機会があった私は、東アジア地域における相互信頼の構築のための重要な措置として、(1)地域諸国間の緊密な対話・協議のメカニズム、(2)早期警戒制度、ホットラインの多数国間ネットワーク化、(3)不信をなくすため、国家の法制を含む諸制度、政策、軍事予算・軍事力等についての最大の透明性、(4)各国の教育プログラムにおける過度のナショナリスティックな見方の教育の回避、(5)紛争の国際裁判所等制度活用による平和的解決などを指摘し、その大前提として、地域諸国間政府民間の人的交流が促進されることが大きな柱となるべきことを強調した。この発言についてはもとより何ら異論は出されず、恐らく出席者には至極もっともな、いわば自明のことを述べたと受けとめられたと思うが、その後の地域の情勢は、これに全く反する展開をたどってきていると見ざるをえない。

 最も残念であるのは、「相互信頼」構築のための上記具体的諸措置以前の重要な大前提として私が言及した地域諸国間政府民間の人的交流が、領土問題を契機とした中国の一方的政治的判断により意図的に日本との間で促進どころか停止ないし延期等措置がとられていることである。同措置は、日中国交回復40周年記念交流イベントから多数国間の非政治的重要会議であるIMF世銀総会の東京会議へのハイレベルの不参加や東京国際映画際への映画人の派遣拒否、ビジネス関係イベント等にまで広範囲に及んでおり、中国当局の真意について多数の識者がはかりかねている。韓国との間でも、領土・歴史問題に起因してぎくしゃくした問題も生じているが、日中間程、人的交流はまだ阻害されていないのが幸いである。

 日中間では、政府間のみならず、文化・地方自治体関係者にまで波及した、人的交流が著しく阻害された現状況は、深刻である。政府レベルでは、辛うじて日中外交当局間で次官、局長レベルで、時折、見解の対立はあってもコミニケーションは続けていこうとの対話、了解ができているだけという心細い状況下にある。幸い、日中韓間定期協議やASEAN+3首脳会議等には、現在のところまだ大きな悪影響は及んでいないようであることに安堵しているが、これらの会議の折通常行われる2国間ハイレベル対話への影響は必須であり、今後とも情勢を注視していく必要があろう。 
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