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2012-09-06 20:27

(連載)「主権国家としてのオーラ」を欠いた日本(1)

袴田 茂樹  新潟県立大学教授
 日本とロシア、韓国、中国との間で、領土問題などに関する緊張が続いている。7月3日にメドベージェフ首相が北方領土を再び訪問して日本への挑発的、侮辱的な言葉を述べ8月10日には韓国の李明博大統領が大統領として初めて竹島に上陸した。その後、国際儀礼を完全に逸脱する形で、天皇陛下への暴言まで吐いた。さらに、8月15日には香港の活動家らが尖閣所等の魚釣島に上陸して逮捕された。その後中国では、日本大使の車が襲撃され国旗が奪われた。日本の国家主権や日本人の尊厳まで侮辱し踏みにじるこれら一連の出来事の背後には、共通の原因がある。それは、日本が主権国家としての「侵しがたいオーラ」を発していないということ、そして勝手放題に侮辱されても、威厳を保つための然るべき対応や行動を取っていないということだ。それどころか、侮辱され叩かれても、卑屈にご機嫌取りの振る舞いさえしている。人間で言えば、人格を否定される形で小馬鹿にされ侮られても、エヘラエヘラしながら相手の機嫌をとっている、と言った図である。

 「大人の態度」「冷静な対応」「大局的な観点」などと言えばたしかに聞こえは良い。「隣国との友好関係」が重要なことも事実だ。しかしこれらは、怒るべき時には怒り、「あいつは怒らせたら怖い」というオーラを発していて、初めて意味がある言葉だ。そして、そのような気迫を示してこそ、国家間の紛争や摩擦は未然に防げるし、屈辱感からくる感情的ナショナリズムの高揚も防げるし、まともな国際関係も成り立つのである。屈辱されコケにされながら「冷静な対応」「大人の態度」といった美辞麗句を弄して、国際的に通例とされる最低限の対応さえもしないのは、単に己の無為無策、自らの弱さや無力を、つまり反撃されても何もできない無策をカムフラージュするためでしかない。

 最も深刻で情けないことは、今の日本には主権国家としての「オーラ」あるいは「気迫」が決定的に欠けているということだ。このオーラは、実力と痛みへの覚悟(場合によっては経済的損失にも耐える覚悟)がなくては発し得ない。その実力の中には、日本自身の防御力、経済力、外交力、情報発信力だけでなく、同盟国である米国との緊密な信頼関係も含まれる。最大の問題点は、「主権国家としてのオーラ」というこの基本的な事柄が、日本の政治家も知識人もマスコミ人も、理解できなくなっていることだ。そこから、国家の主権や尊敬を毅然として守るということと、「感情的なナショナリズム」はまったく別の事柄だということも分からなくなってきている。8月28日の新聞(日経夕刊)を見て驚いた。「首相、日中改善へ親書」「冷静な対応要請」「外務副大臣が訪中」といった見出しで、尖閣問題や公用車襲撃問題を報じているのだが、中国に出発した山口外務副大臣について、「親書を手渡す具体的な相手は調整中」と報じているのだ。もしこれが事実なら、本末がまったく転倒していることになる。本来なら日本が強い不快感、怒りを示し、中国側が訪日して関係修復のための親書を届けるべき状況のはずだ。日本外務省や現地日本大使館は、山口副大臣が中国のしかるべき人物に「会って頂けるよう」あれこれ方策を尽くし走り回っているのだろうか。

 韓国や中国の日本の主権を踏みにじる一連の尊大な行為の背景には、先ほど述べた「主権国家としてのオーラ」の欠如の問題の他に、直接的には、北方領土問題に対する日本の対応があることは、間違いない。当然のことながら、李明博大統領は、2010年11月、メドベージェフがロシア大統領として初めて北方領土を訪問したときの状況も、今年7月のメドベージェフの再訪も、注意深く見ている。一昨年のメドベージェフの訪問は、それが横浜でのAPEC首脳会談の直前という挑発的行為だったにもかかわらず、日本は形式的に言葉で抗議しただけで、横浜ではニコニコと首脳会談を行った。今年7月の国後島訪問時には、メドベージェフ首相は日本を侮辱する挑発的発言までした。にもかかわらず、同じ7月に玄葉外相はプーチン大統領への秋田犬のプレゼントまで携えて、保養地ソチを訪問した。そして森善朗元首相の大統領への面会まで求めている。誰が見ても、日本の卑屈な外交は異常である。(つづく)
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