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2012-07-15 06:50

(連載)アジアにおけるヨーロッパの役割(2)

河村 洋  外交評論家
 ヨーロッパ諸国のアジアに対する姿勢をさらに理解するには、世界全体に対する姿勢を理解する必要がある。ロバート・ケーガン氏が自らの有名な著書『ネオコンの論理』で述べているように、ヨーロッパは安全保障の責任をアメリカと言う保安官に丸投げしている。ヨーロッパがアジアに消極的なのは地理的に遠いからではなく、ポスト帝国主義の心理状態にあるためである。ブッシュ政権によるイラク戦争を支持したケーガン氏を単独行動主義者と見る向きもあるが、それは間違っている。ケーガン氏は緊密な大西洋同盟によってグローバルな課題に取り組むべきだと主張しているので、こうした文脈からすればヨーロッパはアジアで自らが果たすべき役割をもっと鋭敏に認識すべきである。ヨーロッパが積極姿勢に転じれば、安倍元首相であれ他の誰であれアジア太平洋諸国の指導者は多いに歓迎するであろう。

 ヨーロッパは欧州連合という集団チャンネルか主権国家という独立のチャンネルかのどちらかを通じてグローバル・パワーとして行動できる。アジア欧州会合(ASEM)は欧亜関係を深化させる集団チャンネルの一つである。EUは小国でも持てる実力以上の力を発揮できるという素晴らしい機会を与えてくれるが、カーネギー・ヨーロッパのステファン・レーン訪問研究員は今年の7月の報告書で「三大国がしばしば主権国家としての行動を選択する」と論評し、英仏独の外交政策を比較している。レーン氏の論文を基に三大国のアジア政策について述べたい。第二次世界大戦の勝者で核保有国でもあるイギリスとフランスはより積極的な政策をとるが、ドイツはリーダーシップを取るような役割には消極的である。

 イギリスはアジアとの関係強化を打ち出している。マーク・キャニング駐インドネシア大使は英国外務省のブログの4月27日付けの記事でアジア政策について語る際に「再優先化(re-prioritisation)」という語句まで使った。キャニング大使は駐ASEAN大使も兼務しているので、イギリスのアジア太平洋政策で非常に大きな影響力を持つ立場である。イギリスはアメリカやロシアと同様にアジアでの影響力拡大を狙っている。ヨーロッパ外交問題評議会のジョナス・パレロプレスネルセニョール政策研究員は「イギリスが他のヨーロッパ諸国も同様にアジアで積極外交を展開するよう望んでいる」と指摘する。

 ロイヤル・ネービーが1971年にシンガポールより撤退した後も、イギリスはオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールと結んだ五ヶ国防衛取極めを通じてアジアでの軍事的な影響力を維持しようとしてきた。今年の4月にはデービッド・キャメロン首相がヨーロッパの首脳の先陣を切ってミャンマーを訪問し、アウン・サン・スー・チー氏を激励した。6月にシンガポールで開催されたシャングリラ対話では、ニック・ハーベイ国防担当閣外相が渡辺周副防衛相と会談し、サイバー空間と宇宙に関する日英間の防衛協力の進化で合意に至った。(つづく)
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