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2012-04-25 07:06

橋下「反原発発言」の虚構を突く

杉浦 正章  政治評論家
 「原子力発電の位置づけを理解し、自覚したうえで議論すべきで、政治的な材料にすべきではない」と福井県知事・西川一誠が大阪市長・橋下徹を真っ向から批判した。確かに橋下の主張が明確になるにつれて、自己都合の「暴論」で、国のエネルギー政策を「政局化」しようとする意図が、鮮明になって来ている。橋下発言は、国民の感情を刺激するワンフレーズ・ポリティックに徹しており、西川の指摘するように、とても「理解し、自覚」しているレベルではない。心ある自治体の長は橋下を軽蔑していることが、これで分かる。国のエネルギー政策がポピュリズムに蹂躙(じゅうりん)される前に、橋下発言に徹底した論理的反論を加えておく必要がある。橋下と大阪府知事・松井一郎は4月24日上京して官房長官・藤村修と会談し、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働反対の意思表明をしたが、藤村は反論して、物別れに終わった。この後、橋下は「安全性について政権はごまかしている。政治家が安全宣言をしたということは絶対におかしい。科学者はだれも安全性にお墨付きを与えていない」と述べた。

 まずこの発言から分析すると、橋下発言に共通しているのだが、独断と偏見に基づくものと言わざるを得ない。「科学者は誰もお墨付きを与えていない」というが、我が国最大の原子力専門家集団は、首相・野田佳彦に稼働を進言した原子力保安院ではないか。その保安院が専門の科学者集団ではないというのなら、日本のどこに専門家がいるのかと問いたい。自分の回りに群がる「御用学者」「御用官僚」の甘言だけを根拠にしてはいけない。「政権は安全と言うが、科学者は言っていない」と言うが、科学者とはどこの誰か。野田は思いつきで安全宣言をしたわけではなく、一年間にわたる専門家集団の積み上げの上に立った発言をしていることが分かっていない。橋下は「科学的知見がないまま、政権が安全宣言を出した」というが、自分の科学的知見がみのもんたとそのコメンテーター集団並みのレベルであることを早く自覚すべきだ。

 橋下は「大飯原発の安全性は非常にあやふやだ。生活の利便性は、安全性がはっきり見えるまで我慢すればよい。冷房を我慢するのと大飯原発再稼働とをてんびんにかけるべきだ」と主張するが、20%の電力不足が意味することを全く分かっていない。停電と節電を繰り返していては、まず地域の経済が持たない。日本は世界でもまれに見る電力依存度の高い産業構造を作り上げている。ビルの窓は開閉が出来ない。大阪の蒸し暑さがオフィスを襲う。蒸し風呂の中で冷房なしでは人間の体が持たない。より重要なのは、橋下が近代都市がコンピューター社会であり、すべてが電子機器によって管理されていることが分かっていないことだ。病院のカルテも企業のデータ管理、処理も不可能となる。まず大阪から企業が逃げ出すのだ。工場だけでなく、オフィスも逃げ出す。停電は弱者を襲う。生命維持装置は稼働しない。年寄りの熱中症による死亡者が続出する。仙谷由人が「集団自殺」と形容し、藤村が「命の問題に関わる」と指摘したが、これはまぎれもなく橋下行政による「停電殺人」となる話ではないか。米国なら訴訟が相次ぐだろう。中小企業は電力不足の上に電力料金の値上げで息も絶え絶えとなる。原発の停止でそのエネルギーをLNG輸入に置き換えれば、年間4兆円が必要となるという計算がある。国民1人当たり4万円の負担となるが耐えられるか。戦争直後のようにローソクを灯して生活する覚悟があるのか。

 「揚水発電がある。ピーク時の節電でしのげる」と言うが、科学的、数学的根拠を全く示していない。揚水発電と簡単に言うが、揚水のためには電力が必要だ。そのための夜間電力が原発なしでは余らないのだ。ピーク時の節電と言っても、企業、工場がもっとも活動する時間帯だからピークになるのであって、これに規制をかければ、生産性はがた落ちとなって、企業存続の危機となる。余剰電力を他の電力会社から回す」と言うが、すべての原発を止めてしまって四国も中国も九州も余剰電力など生じない。橋下の発言の癖は、小泉の真似で、テレビを見る一般大衆向けにワンフレーズで訴えることを得意としている。「電力が足りないから原発が必要というのは、霊感商法と同じ」と決めつける。国のエネルギー政策を犯罪者集団と同じだというのである。この言葉はミニ・ヒトラー橋下の全体主義志向発言の中でも極めつけであり、自らが大衆催眠術的な霊感商法の教祖みたいなものであることを自覚していない。冒頭西川が指摘しているように、国のエネルギー政策を政治的な材料にすべきでない事は言うまでもない。橋下はエネルギーが天から降ってくるとでも思っているのか。「安全宣言は本当に恐ろしい。民主党政権を倒すしかない」とおっしゃるが、市政棚上げで、「風」だけを頼りに自らの政治的野望達成のため国政をろう断するつもりか。小沢一郎の政治と同じで、必ず馬脚を現す。

 
 
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