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2012-04-23 20:05

(連載)エネルギー問題の複雑さ(1)

加藤 朗  桜美林大学教授
 旧聞に属するが、エネルギーに対する新たなパラダイムを中沢進一が『日本の大転換』で披露している。原子力発電について、彼はこう記している。「原子炉で起こる核分裂連鎖反応は、生態圏の外部である太陽圏に属する現象である」。これとは対照的に「石油や石炭を使った他のエネルギー利用とは、本質的に異なっている」(22頁)。全く中沢の指摘の通りである。つまり、われわれは太陽からのエネルギーとは全く無関係の核分裂エネルギーを地上で創り出し、利用してきたのである。原子のエネルギーが取り出せれば、人類は永遠のエネルギーを手に入れることができる。

 しかし、残念なことに、核融合エネルギーである太陽エネルギーとは異なり、核分裂エネルギーである。核分裂エネルギーはプルトニウムを生産する増殖炉が実現すれば、人類にとって永遠のエネルギーになるはずだった。たった一つの問題を除けば。それは核のゴミ処理問題である。今のところ核廃棄物を処理する方法は見つかっていない。その意味では、核分裂エネルギーを利用した原発は欠陥のある技術である。たしかに、吉本隆明のいうように科学技術の進歩を止めることはできない。しかし、少なくとも核分裂から核融合へ、あるいは核から他のエネルギーへと科学技術の方向を変える必要はあるだろう。

 ただ新たなエネルギーとしてもてはやされている太陽エネルギーにも決してバラ色の未来があるとは思えない。現在地球上に70億人もの人類が生存している。これほどの人口増加したのも、ひとえに化石燃料のおかげである。単純に計算して、人間一人が生命を維持するのに必要な最低限のエネルギー総量は決まっている。太陽エネルギーを植物が蓄え、蓄えられた太陽エネルギーは草食動物によってさらに蓄積され、それを肉食動物や人間のように植物や動物も食べる雑食動物が食べて生存している。つまり生命の全てのエネルギーの源は太陽にある。全てのエネルギーを太陽に依存していた時代が農業時代である。農業時代は太陽のエネルギーを食料としてほとんど蓄積できなかった。塩漬けや乾燥した肉や野菜のように動植物の貯蔵には限界があった。だから家畜を飼い、穀物や野菜をつくり、それらをすぐに消費するか、短期間貯蔵できる範囲でしか人間は生きられなかった。

 ところが化石燃料の発見が状況を一変させた。化石燃料とは、太陽エネルギーの缶詰である。地球が過去に受けた太陽エネルギーを植物や動物として蓄え、さらにそれを濃縮して貯蔵したのが石油や石炭のような化石燃料である。この化石燃料のおかげで食料生産は飛躍的に増加し、貯蔵もほぼ半永久的に可能となり、何よりも交通網の発達で余剰生産物を足りない地域や国に運搬することが可能になり、多くの人間が生存できるようになった。つまり、現代のわれわれは過去の太陽エネルギーの恩恵を受けて生存しているのである。だからこそ、この50年間だけでも世界人口は倍になり、現在70億人もの人口を支えることができるのである。(つづく)
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