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2012-04-17 06:50

消費税政局に翻弄される原発再稼働

杉浦 正章  政治評論家
 「一瞬原発ゼロ」の経産相・枝野幸男発言を再稼働への布石ととらえて油断すると、首相・野田佳彦は痛い目に遭う可能性がある。むしろ枝野発言には「一瞬ゼロ」を「当分ゼロ」または「永久ゼロ」のとっかかりにしたいとの狙いがあるのではないか、と永田町ではささやかれている。いずれにせよ全原発が止まる5月5日には再稼働は間に合いそうもなく、確実に発生する消費税政局の激動に、再稼働問題は翻弄される危険性を帯びてきた。まるで再稼働反対派も、推進しようとする政府も、「支離滅裂」のオンパレードだ。大阪市長・橋下徹は野田の再稼働方針について「絶対に許してはいけない。次の選挙で民主党政権は代わってもらう」と威勢のよいたんかを切ったまではいいが、幹事長・輿石東からドスの利いた声で「きちんと受けて立つ」と切り返されて、ぐらついた。4月16日には「何が何でも絶対反対というわけではない。原子力安全委員会が安全といわなくても、政治的に判断したというなら、そういう政治のやり方も是とする」と前言を翻した。橋下は自ら関電に突きつけた「100キロ圏内の知事に原発稼働拒否権を与える」という超ドラスティックな8条件についても、反対の声が起きると「私が出しても、国民も関電も無視すればいいだけの話」とやはり軟化している。

 官房長官・藤村修が「支離滅裂」と批判するゆえんである。橋下の“手口”は明白だ。最初は強く出てマスコミの関心を買い、後で修正する。選挙向けに地歩を一歩築けばいいという姿勢で、無責任にも、政治問題をおもちゃにしている。
しかし、政府の方も、橋下に勝るとも劣らぬ支離滅裂ぶりだ。枝野発言の内容は“ぶれ”を通り越して、“異常”な段階に入っている。国会では「原発への依存度を最大限、ゼロを目標に引き下げるのは、政府の明確な方針だ」と答弁したが、福井県庁では「今後とも引き続き重要な電源として活用することが必要だ」と180度変わった。早期再開に向けて旗を振っていたかと思うと、今度は「国内で稼働する原発は、5月6日から一瞬ゼロになる」と述べたのだ。一基でも稼働させて、脱原発への“歯止め”とする方針を、自ら放棄したのだ。枝野のぐらつきは、元首相・菅直人と同様にイデオロギーに根ざした、まぎれもない反原発意識が根底にある。しかし野田と政調会長代行・仙谷由人の再稼働への意気込みに押されて、普段は本音を引っ込めているのだが、時々意図的に反原発の原点に戻るのだ。藤村も揺れている。なぜかといえば、維新の会の躍進で、地元の大阪7区での落選がささやかれるようになったからだ。16日も「一瞬ゼロ発言」に関連した大飯再稼働について「後ろを切って決めることではない」と、さらなる先延ばしを示唆した。

 加えて、橋本発言について「選挙のイシューとして信を問う案件ではない。現実的な問題で、政治的マターにしない方がいい」と述べた。本来なら官房長官は首相の意を受けて推進論に固まらなければならないところだが、自らの選挙を意識して“びびり”始めたのだ。関係閣僚が“自己中”にも腰が引けているのだ。とりわけ枝野の「一瞬ゼロ」発言の狙いは、本人の脱原発志向からみれば、必ずしも再稼働を前提にした既成事実を積み上げるところにあるかどうか疑わしい。今後の日程を見れば、福井県の専門家による安全性の検証作業の結論が出るまでには1~2週間はかかる見通しだ。政府の事前手続きも2、3週間はかかると見込まれる。したがってまず5月5日には大飯原発再稼働は間に合わず、稼働ゼロになる方向だろう。枝野は、その期間が「一瞬」と言うが、この発言は担当閣僚としての職責上のアリバイ作りである可能性がある。なぜなら枝野は政局を計算に入れているに違いないからだ。

 遅れても消費税増税法案の審議入りは連休明けには実現して、野田政権はいよいよ正念場を迎える。野田にしてみれば消費税と原発再稼働の政局化で2正面作戦を強いられることになり、いきおい消費税の方にウエートが移行せざるを得まい。そうこうするうちに解散・総選挙に突入することにでもなれば、再稼働をした上での選挙戦は、さすがの野田もちゅうちょするだろう。橋下の思うつぼにはまることにもなる。そうなれば当分再稼働は先送りになるが、いずれにせよ民主党政権の継続は困難であろう。政権交代となれば、再稼働も遅れる。めどは立たなくなる。したがって枝野の「再稼働うやむや化」の底意は、めでたく実現することになる。この流れを断ち切ることが出来るのは、野田と仙谷しかない。政権内推進派も枝野を通り越して、野田に直接訴えるしかない。野田は信念に従って、再稼働への姿勢を確固として維持し、リーダーシップを発揮して正式な再稼働を早期に閣議決定してしまうことだ。そうでなければ仙谷の見事な表現通り「日本の集団自殺」は目に見えている。 
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