国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-04-06 09:57

プーチンの大統領復帰後の米ロ関係

岡崎研究所  シンクタンク
 ブルッキングス研究所のウェブサイト3月5日付で、同研究所のSteven Piferが、プーチンの大統領復帰によって、米ロ関係は若干ぎくしゃくするが、大きく悪化することはないだろう、と言っています。

 すなわち、この問題については以下の5点を考慮すべきだ。つまり、(1)首相時代も実権はプーチンにあり、大統領復帰によってロシアの対米戦略が変わることはない、ただ、(2)プーチンの対米不信は非常に強く、従って、首脳レベルのトーンは変わるだろう。リセットはメドヴェージェフの下でなされた、他方、(3)プーチンは国内政治、経済両面で厳しい状況に直面する。また、これまでと違い、国内に強固な支持基盤がないことを自覚しながら外部世界と向き合うことになり、その影響がどう出るかわからない、しかし、(4)プーチンは金銭に関しては現実的、実利的な面がある。今回の選挙では軍事増強を訴えたが、大統領1期目に石油高騰で収入が増えた時は、金を軍備に使わず、外貨準備と危機に供える基金の積み上げに投じた。つまり、プーチンがバターより大砲を選択するとは限らない、また、(5)今後6年ないし12年大統領を務めるプーチンは、米国に関しては新大統領が決まるまで半年ぐらい待っても構わないと考え、待ちの姿勢をとる可能性がある、と指摘し、結局、米ロ関係に多少揺れはあるかもしれないが、プーチンは米ロ関係をひっくり返すようなことはしないだろうし、米大統領もプーチンと話し合っていけるだろう、と言っています。

 論説は、プーチンの大統領復帰が米ロ関係にとってどういう意味を持つか、という設問へのパイファーの答えを述べたものですが、その内、最も重要なのは第1の点でしょう。メドヴェージェフ大統領時代にもロシアの真の政策決定者はプーチン首相でした。つまり、2000年以来、実質的にはずっとプーチンがロシアの最高指導者だったのであり、職責の名称が大統領か首相かというのはあまり意味のないことです。従って、プーチンの大統領復帰で対米関係が変わることなどない、変わるはずがないと考えてよいでしょう。ただ、これはロシアが変わらないということではありません。ロシアは今変化の時期にあります。プーチン流の強権政治への中産階級の不満、プーチンのカリスマの急激な消失、石油・ガスに依存する経済の停滞・脆弱性・非効率性など、問題が山積しており、これを打開しないと「強いロシア」は夢になってしまう状況です。汚職の蔓延や男性の平均寿命が62.8歳でしかないことは、ロシア社会の病理を示しています。

 日本人は、ロシアを大きく強大な国、対する日本は小さな島国と考え、北方領土問題について、強大な国に島の返還を哀願しているかのように考えがちですが、これは実態と違います。IMFの2010年のGDP統計では、日本のGDPはロシアのGDPの3.5倍もあります。他方、人口は大体同じであり、ロシアも少子化で悩んでいます。対ロ交渉では、日本は核兵器能力(ただし、日米安保に基づく核の傘はある)を除いて力関係ではずっと優位にあり、ロシアもそれをよく知っていることを考慮すべきでしょう。なお、プーチンは、3月1日外国メディアとの会見で、日ロ領土問題を「引き分け」で解決したいと述べました。2島返還で最終解決をというのであれば、話になりませんが、解決意欲については評価して、日本側が正統な要求は堅持しつつ、ロシアの真意を見定めるために話し合うのはよいことでしょう。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会