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2012-03-13 07:01

参院自民は「関東軍」の暴走か

杉浦 正章  政治評論家
 さすがに「関東軍」だ。政策も何も全く論議しないで、冒頭からいきなり「首相問責決議案を出す」ときた。何か首相・野田佳彦が大失政か、失言でもしたかというと、そうでもない。とにかく「あなたを退陣に追い込む」のだという。まさに「はじめに政局ありき」だ。これで山本一太は参院予算委員会筆頭理事だから、今後の予算委の質問が思いやられる。話し合い解散を視野に入れる自民党執行部と、極端な強硬路線をとる参院側の落差だけが浮き彫りとなった。鳴り物入りで自ら宣伝していたから、相当の爆弾質問があるのかと思っていたが、爆弾は「怒声」だけだった。これを予算委審議の冒頭にぶつけるのだから、自民党も相当論客に枯渇しているのではないか。山本は、冒頭まず話し合い解散で野田を追及した。「消費税増税法案に賛成して成立のめどがついたら、その見返りとして早期に衆議院の解散・総選挙を行うという選択肢は、ただの1%もないのか」とか「話し合い解散の可能性は0%だということでいいのか」とたたみかけた。

 野田は「解散については、はっきり具体的に言うべきものではないと思うが、一体改革も含めてやらなければならないことをしっかりやり抜いた上で、適切な時期に判断するということに尽きる」と述べた。野田発言は明らかに話し合い解散の可能性を否定していない。これに対して山本は「自民党としては、談合になるから話し合い解散はしない」と宣言したのだ。これにはさすがに与野党の席から失笑が漏れた。というのも、解散といえば首相の大権であるうえに、自民党は総裁・谷垣禎一が野田との極秘会談で話し合い解散を選択肢に入れたばかりだ。いくら筆頭理事でも「解散しない」などと党の最重要戦略を、誰とも相談なしに言える立場にない。ましてや参院議員だ。衆院の解散に口を出すなとは言わないが、いささかのお門違いは否めない。次いで山本は、いきなり「この国会であなたの内閣は必ず退陣に追い込む。場合によっては首相問責という手段も行使して、あなたを必ず追い詰める」と木に竹を接ぐように退陣論をぶったのだ。

 野田にしてみれば、当然問責決議の理由は何かを聞き返したいところであったに違いない。質問は概してスピッツがキャンキャン吠えている感じで、見ている者をうならせるような“勉強”の形跡や、“深み”はつゆほども感じられなかった。消費税を引き上げたあとにさらなる増税という新聞報道を取り上げて「真実か」と聞いたのも、見当違いだ。副総理・岡田克也が「いちいちコメントする必要はない」と答えたが、この方がまっとうだ。だいたい質問者が新聞報道を材料にして追及するのは、昔からタブーとされてきた。勉強不足が露呈するからだ。かつて社会党の爆弾質問男と恐れられた楢崎弥之助は「新聞を読んで、すぐ質問するようなことだけはするな。新聞の後追いをするのではなく、新聞が後追いするような質問をするべきだ」と後輩を戒めたものだ。野党政治家の矜持の問題なのだ。やはり社会党委員長・石橋政嗣から質問をした後の大学ノートを見せてもらったことがあるが、3冊にびっしりと細かい字で追及のポイントが書かれてあった。政権を追い詰めるには質問者の方も必死の勉強が不可欠なのだ。

 それにくらべて山本質問は「政策よりも政局」が目立った。質問する方にしてみれば政策の調査、研究に時間をかけるより、政局で「解散だ」「倒閣だ」と追及した方が簡単で、派手なのだ。おまけに答弁が下手な防衛相・田中直紀を問責狙いで責めたてる。田中ばかりか、野田に対する問責決議案も、4月に提出する構えだという。しかし、衆院自民党の基本戦略は、首相への問責を4月に提出する方向にはない。問責を提出すれば、国会はストップして動かなくなる。予算関連法案は置き去りとなる。世論の批判は間違いなく自民党に向く。冒頭述べたように、山本質問は話し合い解散を視野に入れる執行部から離れた「関東軍の暴走」という色彩が濃い。恐らく戦略の中には「暴走」させて、野田から話し合い解散を引き出そうという高等戦術もあるのだろうが 、山本のようにコントロールが効かなければ、本物の関東軍がそうであったように、どこへ向かうか分からない。本人は「切り込み隊長としての役目は、何とか果たせた。政策のための政局なのだ」と自画自賛しているが、共感は得にくい。「政局のための政局」に映る。
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