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2012-02-08 06:50

情けない石原伸晃の「エイリアン」発言

杉浦 正章  政治評論家
 「しっかりとセンテンスを見て欲しい」というから、しっかり見たが、どうみても自民党幹事長・石原伸晃の「胃ろうエイリアン」発言はひどすぎる。「我が身をつねって、人の痛さを知れ」は、政治の要諦だと思うが、おぼっちゃまの冷たい上から目線しか感じない。同じく、政府の自殺防止キャンペーンの標語も、アイドルグループをもじって遺族を傷つけた。この国の政治のレベルの低下は、目を覆わんばかりだ。石原と同じような言い訳を、かって父親の都知事・石原慎太郎がしたことを思い出す。1999年府中療育センターを視察した後に、同センターに入所している重い知的障害と重度の身体障害をあわせもつ子どもや大人をさして、「ああいう人って、人格あるのかね」と述べたのだ。発言後あわてて「文脈を見よ」と言い訳したが後の祭りで、ごうごうたる非難の的となった。

 その遺伝子か、刷り込み教育か、今回の伸晃発言は、父親に勝るとも劣らない。「意識が全くない人に管を入れて生かしている。何十人も寝ている部屋を見せてもらったとき、何を思ったかというと、『エイリアン』だ」と述べたものだ。このセンテンスは、どうみても言い逃れが利かない。問題になった後の弁明で「私自身も『胃ろう』のようなことは行わないと、夫婦の間で決めている」と“追撃”したことからも、確信犯的である。ことは人間の生命の尊厳に関わる問題であり、軽率のそしりを免れない。とりわけ胃ろう治療の知識の欠如は、政治家としてもいかんともしがたい。専門家によれば、胃ろうは末期の患者に施されるとは限らず、完治して外して元通りになるケースもいくらでもある。患者自身や介護者の負担も軽減され、大政党の幹事長からエイリアン呼ばわりされる筋合いのものではない。

 政治家には弱者を見る眼差しが不可欠だ。国宝級の観世音菩薩像の眼差しだ。それが最近の政治からは欠落してしまっている。その原因の一つが、軽佻浮薄な民放テレビ討論のはびこりだ。キャッチフレーズを使って、相手をやり込めて悦に入る。ワンフレーズ・ポリティックの繰り返しで、タレント系の石原のような発言が重宝される。口から生まれてきたような政治家に人気が出て、まじめな勉強型は脚光を浴びない。石原の発言を見れば、エイリアンを嚆矢(こうし)として、父親の石原新党の動きを「人の懐に手を入れる」「父は利用されている」「ハムレットの心境」と、まるで他人事だ。国民新党幹事長・下地幹郎が「親子でよく話せ」と皮肉っているのが、永田町の空気をよく現している。このようなタイプの政治家ばかりがはびこりだしたから、日本の政治レベルの低下が著しくなったのだ。石原は世に「石・石戦争」といわれ、後継総裁に石破茂と競うような形となっているが、重厚味は格段に石破の方がある。

 そのレベルの低さの象徴が政権の側にもある。自殺防止キャンペーンの標語に人気アイドルグループ「AKB48」をもじって「GKB47」とやろうとしたことだ。「GKB」は「ゲート・キーパー・ベーシック」の頭文字で、自殺のサインに気づいて防止する「門番」の役割をもじったものだ。47は都道府県の数だ。これも自殺をテレビのアイドルと同一線上に置く、軽率きわまりない造語だ。政権内外からの非難の対象になったが、担当の副総理・岡田克也は、当初は原理主義者の評判通り標語に固執した。しかしあまりの評判の悪さに「どうしても困る方がいれば、耳を傾ける」と渋々軟化。それでもゲート・キーパーにこだわって「あなたもゲート・キーパー宣言」とした。しつこいのである。1度ケチがついた言葉にこだわるのは、若者流に言えば「サムっ!」であり、「イタっ!」でもある。こうした思慮のない言葉は池田勇人の「貧乏人は麦を食え」以来、我が国政治家の伝統だが、昔は少なくとも“温み”があった。近ごろとみに目立つのは、冒頭述べた「冷たい政治」だ。石原も岡田も強者の論理をまかり通らせようとする傾向があるように見えてならない。これでは「サムっ!」「イタっ!」「ツメタっ!」の三拍子がそろう。
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