国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-12-20 09:42

「岩田50兆円案」を葬るな

田村 秀男  ジャーナリスト
 2011年は増税に明け暮れた、日本歴史上、極めて奇々怪々な年となった。菅直人前政権が消費税増税の準備にとりかかっていたときに東日本大震災に見舞われると、菅氏は復興計画そっちのけで復興増税を持ち出した。それをそっくり引き継いだ野田佳彦首相は、年内の消費税率引き上げ案総仕上げで頭がいっぱいだ。何でも増税で済ませようとするなら、税の手練手管にたけた財務省に丸投げするしかない。だが、今の財務官僚主流派はそもそも、税の自然増収をもたらす経済成長は増税の邪魔になると考えているらしく、成長戦略などそっちのけだ。日銀はそんな財務官僚に歩調を合わせ、脱デフレ・超円高是正策をとろうとしない。

 閉塞(へいそく)状況をどう打破するか。要は、増税至上主義に凝り固まった政官メディアをときほぐし、官にからめとられた政とメディアを正常な政策意識に回帰させることだ。そんなときに、おやっと思わせる「妙案」が明るみに出た。日本経済研究センター理事長の岩田一政氏が、円高是正に向けて日銀が50兆円規模の外債を購入する「金融危機予防基金」の創設を政府の国家戦略会議で提案した。日銀が50兆円のお札を刷って欧州債などを購入して、欧州危機対策に協力せよというのだが、なるほど、これなら量的緩和によって脱デフレと超円高是正効果とが見込める。

 岩田氏は日銀官僚が仕切る日銀の副総裁、財務官僚が牛耳る内閣府のチーフ・エコノミストを歴任した。そんな「インサイダー」が財務省・日銀が忌避する案を提示したのだから、案の定、財務、日銀双方から猛烈な反対を受けている。が、葬り去られる理由はまったくない。日銀はリーマン・ショック後、今年11月までに資金発行残高の約33%、30兆円しかお札を増刷しなかった。一方、米国は3倍に増やした。あふれるドルに比べて円は過少。これが超円高の底流にある。これに50兆円上乗せしても、リーマン前比で1.9倍にとどまる。100兆円の場合でも2.4倍。現在の国際通貨情勢の中では無理のない規模だ。モノに比べてカネの価値が大幅に上がりすぎたために、国内生産活動が萎縮し、数百兆円もの経済成長機会を喪失したデフレ国日本にとってはまだ少なすぎるほどである。

 日銀が明確な量的緩和政策に踏み切らざるを得なくなれば、政策の大転換と市場が受け止め、予想実質金利が下がって超円高に歯止めがかかる。金融理論の大家、学習院大学の岩田規久男教授の試算によれば、50兆円の日銀マネーの追加で、円相場は1ドル=100円前後に落ち着く、という。日経センターという研究機関は日経新聞グループに属する。岩田案が、財務・日銀官僚寄りの印象がある日経新聞論調に一石を投じられるか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会