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2011-11-21 06:52

「話合い解散」には小沢の「待った」がかかる

杉浦 正章  政治評論家
 10月25日付けの本欄への拙稿「解散は見えぬけれども、あるんだよ」で「消費税での話し合い解散」の可能性を指摘したが、1か月たってようやく浮上してきた。11月20日付読売新聞の「6月話合い解散説」だ。消費税法案成立と引き換えの、通常国会会期末での解散説を紹介している。首相・野田佳彦にとっては一つの落としどころだろう。しかし、これまで政局につながる発言を避けてきた民主党元代表・小沢一郎が19日「消費増税反対」の姿勢を鮮明にした。野田の「年内とりまとめ」の国際公約に、はやくも暗雲が垂れ込めたことになる。今後の政局で早期解散のかぎを握るキーポイントは3つある。消費税をめぐる「野田と自民党と小沢」の動向だ。まず野田は「国民に信を問う時点は、消費税法案が通ったあと、増税実施前となる」と述べている。これは、来年の通常国会で法案を成立させた後、1年程度間を置いて、消費税を実施に移す2013年の解散を目指していると受け取れる。参院とのダブル選挙か、都議選も含めたトリプル選挙を狙っていることになる。

 しかし、この野田の立場を「詐欺だ」と述べるのが、自民党前政調会長・石破茂だ。石破は「任期中には公約通り消費税を上げないが、任期中に法案は作る、ということは矛盾する」と言うのだ。たしかにマニフェストで任期中の消費増税を否定して、先の総選挙に圧勝しておきながら、増税法案は任期中に作ってもよい、というのでは詭弁も極まる。対米二枚舌そっくりだ。しかし、消費税そのものは民主党案が自民党案のコピーであるだけに、自民党は反対できない。手続き論で反対するしかないのだ。野田政権が明確にマニフェストを否定するなら、手続き論として法案提出前に解散して、国民の信を問うのがスジだ、と主張しているのだ。副総裁・大島理森も20日「民主党は、おととしの衆議院選挙で、『消費税率を上げる』とは、ひと言も言っていない。消費税率を上げたいのなら、有権者の意見を聞いてから行うのが民主主義の政治だ」と述べ、法案の提出前に、衆議院の解散・総選挙を行うよう求めている。しかし、自民党も手続き論だけでは、消費増税の賛否の本質論と比べれば主張が弱い側面がある。

 ここで小沢の出方だが、19日のインターネットテレビで「抜本改革を何もやらないで、ただ増税するのは反対だ。お金がないから消費税というのは、国民に対しての背信行為だ」と言い切った。マニフェスト原理主義者の小沢らしい発言だが、発言の意図を探れば、選挙大敗で自らの政治基盤が喪失するのを恐れているからに他ならない。小沢は16日夜には、自らに近い衆院議員と会食した席で「民主党衆院議員のうち、いま選挙をやったら50人戻ってこられるかどうかだろう」との見方を示している。もし民主党全体で50人しか当選しないなのら、“風”だけで当選させた小沢チルドレン100人あまりは、当選ゼロとなる。小沢は野田が消費増税で突っ走った場合には、2代続いた首相による民主党政権への幻滅感に加えて、消費増税がマイナス効果をもたらし、壊滅的な敗北となる、と踏んでいるのであろう。自らの判決が4月に有罪と出れば、これに輪を掛けた敗北となる。小沢に近い筋は「小沢さんはぎりぎりまで選挙を引き延ばす考えだ」と漏らしている。このように小沢が早くも現時点で消費税反対のポジションを鮮明にさせたのは、野田が消費税で早期解散に追い込まれる危険を予感した上でのことであろう。とりわけ野党との話し合い解散の“罠”にはまることへの警戒心が強いようだ。

 この小沢の意向は、反主流の消費税反対論を勢いづかせる流れとなろう。環太平洋経済連携協定(TPP)への対応で“前さばき”に徹した野田は、消費税でも自分が前面に出ずに、最終局面だけ出て対応しようとするだろう。しかし、TPPと異なり消費増税は総選挙敗退に直結する、という危機感が党内に大きく作用する。野田は前面に出ざるを得なくなるだろう。前面に出ればぼろぼろにされる。したがって、年内に増税案がまとまるかは予断を許さない。たとえ年明けまでかかってまとめて、消費税法案を期限の3月末までに国会に提出できても、党内から造反が出れば成立は危うくなる。そういう板挟みの苦境に野田が立ち至った場合に、自民党や公明党から「おいしい話」が持ちかけられる可能性があるのだ。「野田さん、解散するなら、消費税は通すよ」という甘いささやきだ。“財務省からの出向首相”といわれる野田が、これに“くらくら”と幻惑されて乗る可能性は否定出来ない。そこが“話合い解散”のポイントなのである。野田が信念の人ならば、「小沢の造反」を切って捨ててでも、国家100年の大計のため、話合い解散に踏み切るのだが、いまのところは小沢への恐怖感が先行するばかりで、そこまで読めているかどうかも怪しい。すべては野田に身を挺する覚悟があるかどうかにかかっている。
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