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2011-09-16 07:28

野田政権の「党高政低」路線では人気低落必至

杉浦 正章  政治評論家
 9月16日で発足以来丸2年になる民主党政権は、発足以来混迷に混迷を重ね、いったん菅政権で断末魔に至ったものの、3代目になる政権交代でようやく一息ついている感じだ。首相・野田佳彦は前2代の大失政に歯止めをかけるべく、マニフェストの「政治主導」を放棄、政権運営の「自民党化」をはかって、ひたすら低姿勢に徹している。その間隙を縫うように、「小沢支配」が党・内閣に行き渡ろうとしている。それが小沢一郎の意を受けた幹事長・輿石東の強権的政治手法となって現れ、政府より党が強い「党高政低」の様相を色濃くしている。世論調査で現れる民主党政権への評価は、内閣支持率が一応V字型回復を見せているのとは逆に、散々たるものがある。新聞は発行部数に関わるから国民への批判は一切書かないが、2年前に国民は完全に民主党にだまされたのだ。有権者はマスコミの扇動に乗って、また自民党政治のあまりの貧困さに憤り、浅慮にも選択を誤って、民主党を圧勝させてしまったのだ。マニフェストなどろくろく読んでいない層による、ムードに酔った選択が、すぐに「ルーピー」と米国から軽蔑される鳩山由紀夫を首相に選んでしまった。「この国民にして、この政権あり」の悲惨な現実が露呈した。民主党政権は国民のガバナビリティ(被統治能力)欠如の結果であった。

 鳩山は「無血の平成維新」と舞い上がり、その言動は、内政のみならず、普天間移設問題など外交・安保にまで、未曾有の大失政を我が国にもたらした。鳩山・小沢ラインは敵失による勝利をマニフェストによる勝利とこじつけ、事業仕分けが象徴する一大パフォーマンス政治を展開した。マニフェストの財源を「政権を取ればどうにでもなる」(小沢)と16.8兆円も見込んだが、財政の現実とはかけ離れたものと分かり、結局三党合意による「子ども手当」撤回で、マニフェストは破たんしたのである。民主党政権の体たらくは、独善的体質の菅直人に引き継がれて、尖閣事件への対応に象徴されるはちゃめちゃな政治展開となった。不幸なことに、1200年に1度の東日本大震災と津波、そして原発事故が発生した。政治に「イフ」はないが、もし大震災が発生すると知っていたら、国民は民主党政権を確実に選択しなかっただろう。菅の対応は、原発事故の当初から実態を見誤った上に、方向感覚を逸しており、復旧・復興の遅延も招いて、今日に至っている。この2年続いた「首相選択」の失敗と2年にわたる「政治空白」は、国民に深い後悔の念をもたらしている。野田内閣への支持率は、当面60~70%の高支持となって現れたが、これはいわばご祝儀相場である。次第に露呈する政権の姿から見て、必ず「右肩下がり」の傾向を示すだろう。それよりも重要なのは政権の実績に対する評価だ。

 9月のNHKの調査によると「実績を評価する」は23%で、昨年同月46%の半分となった。「評価しない」は50%から72%にまで上昇した。読売新聞の調査では政権交代を「良かった」とする回答は47%で、昨年9月調査の58%から下落した。「良くなかった」は41%で29%から大幅に増えた。なんと民主党に「失望している」という回答は79%に達した。要するに、内閣支持率と連動していないのだ。民主党政権を選択して「しまった」という国民感情が横溢(おういつ)しているのだろう。そこで野田政権だが、政権発足半月で見えてきたものは、野田が前2代への「逆張り政治」を展開していることであろう。まず野田の言葉から「政治主導」が消えた。それどころか「政治の自民党化」を推進しだした。党は政調会長を復活、税制調査会もスタートさせた。政府は事務次官会議を事実上復活し、禁止していた法制局長官の国会答弁も認めた。

 まぎれもない「脱官僚」から「入官僚」への転換だ。国会答弁も首相が演壇上で数限りなくお辞儀を繰り返すという卑屈なまでの低姿勢ぶりである。低姿勢は党運営にも反映しており、細川護煕がとりもった8月の小沢との会談で野田は、事実上小沢に屈した形であろう。小沢は、輿石を幹事長に押し込み、国会運営、マスコミ対策などで小沢流の強権政治を展開させ始めた。もちろん選挙はダミーの副幹事長を通じて資金、公認という勘所を押さえた。党の実権は小沢に移ったと言ってよい。こうして「党高政低」が実現しつつある。日教組のドン輿石は、日教組の組織防衛論をそのまま適用して、マスコミの情報管理をするという暗い政治に踏み込んだ。さらに日教組出身の神本美恵子と水岡俊一両参院議員を、文部科学政務官と首相補佐官にそれぞれ起用するという露骨な勢力拡大人事を進めている。しかしこの「党高政低」路線は、10月から裁判が始まる小沢の「政治とカネ」の問題とも絡んで、政権に大きなマイナス効果をもたらすだろう。加えて復興増税、消費税増税など国民への負担増も俎上に載せざるを得なくなる。「人気のどじょう内閣」が「不人気内閣」に転落する兆候は、発足半月で十分見え始めた。
 
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