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2011-07-27 09:47

オバマ政権のラムズフェルド路線回帰は、歴史の皮肉!

川上 高司  拓殖大学教授
 4000億ドルをおよそ10年間で削減することを至上命題とするパネッタ新米国防長官は、予算削減の凄腕と言われ、国防費削減の期待がかかっている。国防費削減は新しいようで、実は古い積年の課題でもある。歴代国防長官を振り返ってみると、超合理的思考によって大胆な国防費削減を行ったことで知られる人物が2人いる。ベトナム戦争で膨大な国防費を国に負担させたロバート・マクナマラ長官は、マイナスイメージがあるが、実は「切り裂きジャック」と恐れられたほど大胆に国防費削減に挑んだ合理主義者だった。そしてそのマクナマラ長官と並び称されるほどの超合理主義で国防総省のムダなコストの削減と官僚主義に挑んだのが、ドナルド・ラムズフェルド長官である。彼はイラク戦争とアフガン戦争にアメリカを引きずり込んだという負のイメージが強いが、当初は国防費の削減に力を注ぎ、コストの面から米軍の方向性を定めた。その方向性は、今オバマ政権が目指している国防の方向性と同じ、というのは興味深い。
 
 冷酷といえるほどの合理主義者で、実業家としても成功を収めたラムズフェルド長官は、なによりもムダが嫌いであり、最短距離を最速で走るような人物である。21世紀の米軍は、最小の人員が最速で世界中どこにでも遠征し、短時間で任務を終え帰還する、というハイテク・軽量型を目指すべきだと考えた。特殊部隊のような小回りのきく部隊による作戦であれば、コストを抑えることができ、ムダがない、というのが彼の合理主義だった。

 その観点から、イラク戦争では「90日の遠征」と期間限定していた。最小限の人員でイラク軍をたたき(人員規模をめぐってシンセキ陸軍参謀長と衝突したのは有名な話である)、90日で撤収(期間については、戦後のイラク復興プランを任されたガーナ-と衝突した)というのが、本来の彼のプランだった。長期の駐留は彼にとってはムダなコストでしかなかったのである。一方で現場を軽視した合理主義は、軍部との軋轢を生み、逆らう者には懲罰人事を行ったため、軍部との信頼関係は決裂し、最終的には政権を去った。
 
 オバマ政権になって、アフガニスタンではCOIN(対反乱作戦)を採用したため、人員も資金もつぎ込むことになり、戦費は膨大になり、とうとう耐えきれなくなって政策の転換せざるを得なくなった。コストを抑えるために転換した方向は、期せずしてムダを排して米軍を変えようとしたラムズフェルド長官の方向と同じとなった。地上部隊ではなく、無人爆撃による過激派の追撃、オサマ・ビン・ラデイン襲撃に見られるような小規模特殊部隊によるピンポイント攻撃は、まさにラムズフェルド長官が目指したハイテク・軽量・低コストの米軍に他ならないのであり、歴史の皮肉としかいいようがない。
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