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2011-07-12 08:42

混迷に輪をかけた再稼働統一見解

杉浦 正章  政治評論家
 鳴り物入りで統一見解を出すと言いながら、出された見解は、原発再稼働に向けて何ら見通しを立てておらず、混迷は助長された。今夏の再稼働は絶望的となった。むしろ首相・菅直人が居座る限り再開困難とみた方がよい。経団連会長・米倉弘昌は机を叩いて怒りをぶちまけ、原発立地県からは苦渋の声が聞こえる。関与するはずの原子力安全委員長・班目春樹は「再稼働は政府が決めること」とそっぽを向いた。NHKの世論調査ではストレス・テストを66%が評価していない。政権が末期症状のうえに、官僚が協力しないまま重要課題を処理しようとすると、この体たらくになるという証明だ。統一見解は「原発の再稼働は認めない。経産省は敵だ」と漏らす菅のどろどろした“感情論”を反映したものとなった。内容は、玄海原発など停止中の原発を対象に「一次評価」を実施し、再稼働の可否を判断。一方、すべての原発を対象に「二次評価」を行って運転の継続・中止を判断する、という。

 新たに原子力安全委員会が評価に関与し、安全性向上につなげるなどが柱だ。ストレス・テストと言えば聞こえがいいが、見解の内容は矛盾だらけだ。例えば、定期検査中の原発は「現行法令にのっとり安全性の確認が行われている」と強調しながらも、他方で「従来の保安院による評価では国民・住民に十分な理解が得られているとは言いにくい」と指摘している。読む方は股割きにあって、どっちを取っていいか分からない。菅と経産相・海江田万里の主張を併記しただけだからだ。6月18日に海江田が法律に基づいて出した「安全宣言」が有効なのか無効なのかも不明だ。「国民・住民の理解がない」という法的にも曖昧な表現では、何を根拠にしているのかが判然としない。なぜ保安院ではだめで、安全委を加えればよいのか。安全委は、班目が「水素爆発はない」と誤判断したことが物語るように、それこそ「国民の信頼」がないではないか。だいいち班目自身が7月11日「安全評価の結果を再稼働の条件にするかどうかは、政府が決めること」との見解を示し、造反とも受け取れる発言をした。安全委の判断は再稼働問題から独立しているとの判断が背景にある。要するに、菅の再稼働引き延ばしの“政治的思惑”に助言機関である安全委は巻き込まれたくないのだ。

 焦点であるべき再稼働時期についても、統一見解は言及を避けた。官房長官・枝野幸男は「独立性を持つことに安全委の意味がある。電力供給への関心があるからいつまでに結論を出せ、と言ったら意味がない」と述べたが、これは全く逆だ。安全委の権限を理解していない。国家のエネルギー戦略は政治の責任の際たるものだ。政治がリーダーシップを発揮して、さらなる産業空洞化の土壇場にある電力事情に展望を開くべき時だろう。本来原子炉等規制法の基準を満たせば政治が再稼働を判断出来るのであり、菅が唐突に持ち出したストレス・テストの方が法的根拠が薄弱なのだ。なぜ時期を曖昧にしたか。あきらかに菅の「脱原発」への思惑が作用しいる。さすがに「脱原発解散」は自ら否定したが、最後の最後まで意固地になって「脱原発」のポーズをとり、支持率を上げたいのだ。

 欧州でも実施に半年かかるストレス・テストだ。いくら急いでも、運転再開には4~5か月はかかるだろう。菅の脳裏には来年4月に全ての原発が止まったら、日本はエネルギー暗黒時代に突入し、産業の空洞化と雇用に甚大な影響を及ぼし、大不況を招く、などという判断はない。そこにはひたすら在任中の再稼働はしないという、教条主義的な市民運動家の姿があるだけだ。米倉は統一見解について「こんなばかな話は考えられない。混乱と迷走を自分たち菅政権が作りだした」と憤まんをぶちまけた。折から大手報道機関の世論調査が明らかになったが、朝日は「会期末までに退陣すべきだ」が70%。NHKも66%に達した。内閣支持率も朝日が15%、NHKが16%と普通の政権なら潔く退陣する数字だ。居座れば底抜けの一桁台となる。常識では解散も、居座りも、出来なくなった。菅は恥を知るべきだ。海江田は「私自身の恥は自分の努力でそそぐこともできるが、岸本玄海町町長に与えてしまった恥は、私だけの努力ではそそぐことはできない」と、暗に菅の退陣を求めた。その姿勢はよい。
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