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2011-05-31 19:08

(連載)首相の言葉はなぜ心に響かないのか?(1)

高畑 昭男  ジャーナリスト
 昨年6月、米軍普天間飛行場移設問題で迷走に迷走を重ねた鳩山由紀夫首相(当時)に代わって菅直人氏が首相となったとき、多くの国民が「鳩山氏よりはずっとましだろう」と期待を寄せた。だが今や期待は、いずれ劣らぬ失望に変わった。東日本大震災や東京電力福島第1原発事故の対応で指導力を欠いているだけではない。失望させられる材料は、震災前から数え切れないほどあった。昨年夏の参院選では「消費税引き上げ」を掲げたかにみえて、すぐに撤回した。昨年秋以降、重要な政治課題に浮上した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加問題や、社会保障と税の一体改革でも、明確な方向を示さないままに決断を先送りしてきた。

 その割に、菅氏がしばしば口にするのは、以下に挙げる例のように、「全力を尽くす」「死力を尽くす」といった表現だ。
 ▽「私を本部長に緊急対策本部を設置した。被害を最小限にするために政府として全力を尽くす」(3月11日、大震災当日の記者会見)
 ▽「死力を尽くして大震災と原発事故に立ち向かい、日本をより良い社会に再生するために全力を尽くすと約束する」(4月12日、震災1カ月の会見)
 ▽原発安定化の工程表について「全力を挙げて東電の作業に協力する」(同18日、参院予算委員会答弁)
 
 全力を尽くすことがいけないと言っているのではない。問題は、力を尽くすことは「プロセス」(経過)であって、必ずしも「結果」そのものではないことである。菅氏が約束している中身をよく読むと、「原発の安定化」や「日本の再生」ではなく、全力を挙げるというプロセスにすぎない。そうした「努力約束」型の表現は、そもそも内閣発足時からパターン化しているようにみえる。

 「沖縄の基地負担軽減に全力を挙げて取り組んでいく」(昨年6月8日、組閣時の会見)というのもそうだし、「拉致被害者の一刻も早い帰国を実現するために全力を尽くします」(今年1月24日、施政方針演説)というのも、本来なら「全力を挙げて基地負担を軽減させる」「帰国を実現させる」といえば、国民への明確な「結果の約束」といえるが、事実は逆で、約束しているのは「努力する」ことだけなのだ。(つづく)
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