国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-04-18 07:31

五百旗頭をして増税を言わしめる菅の裏操作

杉浦 正章  政治評論家
 「国家存亡の危機に優れた指導者に恵まれたものだ」戦前の駐英大使・重光葵は敵対国首相・チャーチルをこう評した。不幸にも、今の日本は当時の英国がうらやましいと言うしかない。首相・菅直人批判の高まりの中で、半可通の評論家の間で、「この非常時に権力闘争をやっている時か」と言う発言がテレビでたびたび発せられている。しかしなぜ「菅は国難」「菅そのものが大災害」という合唱が生じているかについては、分析しようとしない。評論家やコメンテーターは、与野党の政治家がこれほどまでに批判する理由を、見極めていないのだ。その理由を一言で言えば、平時でも危ない菅が首相では、非常事態においてはなお危ないのだ。その危機感が政界に共通してきているのだ。単に「権力闘争」と形容するのは皮相的かつ通俗に堕している。この際、野党のあからさまな菅批判は脇に置いて、だれがみてもまっとうな判断を下す人物の菅評をまず紹介すれば、元官房副長官の石原信雄の発言だ。「自ら東電に乗り込んで注意をされたが、最高指揮官は一歩下がって、全体を見ながら判断を誤らないようにするのがよかった。対策の遅れにつながったことは否定できない」と述べたのだ。菅が3月15日に東電に乗り込んで怒鳴りまくったことを批判している。ヘリによる現地視察と併せて、明らかに原発対応の初動を遅らせたとしか言いようがない。温厚な石原から人を批判する発言を筆者は聞いたことがないが、その石原をしてここまで言わせたのは、よくよくのことであろう。民主党幹事長・岡田克也は「一段落したら検証する」と述べているが、この国家危急存亡の時に「一段落」を待ってなどいられないのが、政治の実態なのだ。

 何代もの首相を見てきた石原が言うように、危機における指導者は、自らが先頭に立って動くべきではない。古来、国主が先頭切って突撃すれば、討ち死にの確率が高く、討ち死にすれば、その国は戦に破れたことになる。菅は長年野党にあって、政権の追及だけに専念してきた政治家であって、行政のトップとしての政治力は未知数であった。しかし首相になったときから、リーダーとしての“馬脚”は現れ始めていた。いくら何でも消費税増税を参院選挙のテーマにしては、政党としての民主党はたまるまい。結果は「衆参ねじれ」となり、自らのよって立つ基盤を危機に陥れた。このピントのずれが「菅政治」の根底を成している。大震災後の発言から首相・菅直人の適性を判断すれば、「東日本が潰れるというようなことも想定しなければならない」「30年間住めない」といった発言は、首相たるものが決して口にしてはならない発言だ。なぜなら、ピントが狂っている上に、国民に希望を与えるべきリーダーが、逆に国民を絶望の淵に陥れるからだ。あらぬ“風評”を招いてしまう発言でもある。リーダーの最大の要件は、その姿を見ただけで国民が“安心”する姿勢だ。ところが菅は、震災当初から悲観主義に貫かれてしまっている。チャーチルは「悲観主義者はすべての好機の中に困難をみつけるが、楽観主義者はすべての困難の中に好機を見いだす」と述べている。悲観主義者では、危機の時に国民をリードすることはできないのだ。国民は姿を見ただけで安心するどころか、菅に運転を託していては、いつ“大事故”を起こすかと不安を覚えている。

 会議の乱立は、官邸をパソコン機器の“たこ足配線”のようにしてしまった。どこがどうつながっているか分からないまま、あちこちでショートを起こしている。船頭多くして船山に上るだ。阪神大震災の時は、震災関連法案16本のうち半分の8本が約40日で成立した。これに比べ、今回はいまだに1本も成立していない。復興会議議長人事も二人から断られた上に、防衛大学校長・五百旗頭真を任命したが、驚いたことに五百旗頭は、まだまともな議論も始まらない会議冒頭の時点で、増税を口にした。「国民全体で負担することを視野に入れるべきだ」と震災復興税を唱えたのだ。それも職業柄なのか、横柄な上から目線での発言である。明らかに菅が五百旗頭をして言わしめている“裏操作”の存在を感じさせる発言である。事前打ち合わせで直接指示したか、少なくとも菅はそう発言することが確信できるから任命したか、のいずれかに違いない。かねてから失言癖のある五百旗頭は「阪神大震災の被災がかわいく思えるほどの、すさまじい震災だ」と就任早々馬鹿な失言をしているが、そもそも増税は、政治の最高判断を要するマターである。諮問機関の議長クラスが議論もせずにリードするような事柄ではない。菅は増税路線を取るならとるで、自ら国民に向けて訴えるべきである。自分の姿をみせずに“操る”のでは、ますます国民は菅を信用出来ないではないか。

 野党との大連立も、いきなり谷垣に電話して「あなたは責任を私と分かち合うつもりがないのか」では、成るものもならない。渡部恒三が「あの場面は、菅が『今は与党だ、野党だ、といっているときではない。私が副総理になるから協力してくれ』というべき場面だった」と漏らしているとおりだ。ことの運び方が分からないうえに、自らの言動の“効果”を推定できないのだろう。石原信雄は菅と会った後、「非常に疲れておいでのようで心配だ」とも述べたが、4月17日のクリントン米国務長官との会談に姿を現した菅の姿は、まさに疲労困憊で、一挙に10年も年をとったような印象を受けた。一回りも二回りも小さくなってしまったのだ。大震災直前に外国人の政治献金が発覚して、進退窮まったのが菅の姿だったが、現在の重圧は、震災前の比ではあるまい。毎晩ブラックホールに吸い込まれるような感覚に陥って、睡眠もとれないに違いない。政界だけではない。国民も見限っている。18日付朝日新聞の世論調査によると、大震災への菅内閣の対応は「評価しない」が60%、「評価する」が16%だった。原発事故への情報提供は「適切でない」が73%、「適切だ」が16%だ。もはや「こんな時に」ではなく、「こんな時だからこそ」首相は交代すべき、という段階に陥ろうとしているのだ。
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会