国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-03-18 07:38

“風評源”の菅よ、「東日本はつぶれない」

杉浦 正章  政治評論家
 風評によるパニックをいかに抑えるかが政治の役目である時に、自らが“風評源”になってはいけない。首相・菅直人が、情報を漏らすことにおいては定評のある内閣特別顧問・笹森清とわざわざ会って、「本当に最悪の事態になった時には、東日本が潰れるというようなことも想定しなければならない」と語った。あっという間に情報は広がった。また、東電が撤退など全く考えていないのに、本社に乗り込み「あなたたちしかいない。撤退など有り得ない。覚悟を決めてください」と東電関係者に強い口調で迫った。こうした首相の動揺ぶりに、ネットでは「もうおしまい」と馬鹿な反応が出て、人心までが動揺している。果たして東日本が壊滅するのか。事態を冷静に分析すればするほど、予断は出来ないものの、「東日本がつぶれるような」事態とはほど遠い、と思わざるを得ない。チェルノブイリとは根本的に違うのだ。菅は「ルーピー鳩山」以上に首相発言の持つ重要性を知らない。

 現在の福島原発事故を俯瞰(ふかん)すれば、稼働中であった1号、2号、3号機は地震発生と同時に制御棒が入って運転が停止され、海水注入が24時間行われ続けているが、圧力が高く、思うようには注入されない。「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」がそろって初めて安全が確保される原子炉の「止める」と「冷やす」の一部は実現した。「冷やす」が完全に実現するかどうかが、原子炉本体が制御されるかどうかの最大の核心部分である。「冷やす」が完全でないと溶融(メルトダウン)の恐れがある。一方、新たな障害としてクローズアップしてきているのが、3号機と4号機の使用済み核燃料棒貯蔵プールの水の蒸発による燃料棒露出だ。これが現在原発周辺で放射線量を高めている最大の原因である。3月17日のヘリコプターによる3号機への放水は、事実上の失敗だろう。それにしてもなぜ数秒間ホバリングして、ピンポイントで放水を行わないのだろうか。多少の危険を冒すのが自衛隊の仕事ではないのか。不可解だ。陸上自衛隊による30トンの放水はプールに的中している可能性が高いが、プールの水量は500トン。露出をどの程度カバーしたかはまだ不明である。しかし使用済み核燃料棒は、東京工業大学教授の鈴木正昭によると「燃料の時の2000分の1の崩壊熱」である。もちろん冷やさなければならないことは確かだ。

 この1,2,3号機の炉心と3,4号機の使用済み燃料の5つの問題を同時並行的に封じ込めなければならないのが現状だ。自衛隊による放水措置はあくまで応急手当であり、最大の問題は電源の回復にある。その電源が18日中にも復旧する方向だ。電源が確保されれば、ディーゼルエンジンを稼働させ、地震時などに対応した緊急炉心冷却システムを起動できるし、貯蔵プールにも水を回せる可能性が出てくる。同システムが生きていれば、復旧へとつながる。こうした状況下で菅の言う「東日本がつぶれる」事態が発生するかどうかだが、菅は事態をチェルノブイリとダブったイメージで考えているとしか思えない。しかしチェルノブイリと福島原発は構造も、事故の内容も、根本的に違う。それをわきまえない菅に「専門家」と自称するほどの知識があるとは思えない。チェルノブイリは黒鉛の固まりを制御に使った黒鉛炉で燃えやすいが、福島原発は軽水炉で、内部に可燃物はない。チェルノブイリには格納容器はないが、福島は厚さ16センチの格納容器に囲まれている。

 チェルノブイリは誤作動で核爆発を起こしたが、福島は最悪のケースで炉心溶融による水蒸気爆発はありえても、その爆発規模は桁違いに小さい。現段階で溶融から水蒸気爆発へと展開する兆候はみられない。チェルノブイリは信じられないほどのずさんな操作が原因だが、東電の操作は極限状態の中、細心の注意が払われている。水蒸気爆発が発生しても格納容器の蓋が飛ぶ程度で、核燃料が吹き上げられることは考えにくい、とする専門家もいる。チェルノブイリよりもむしろ米国のスリーマイル島事故との類似点を挙げる専門家が多い。同島の事故の場合も炉心溶融を起こして、燃料が下部にたまったものの、水蒸気爆発は何とか避けられた。このように見てくると、専門家の多くが事態の深刻さを指摘する反面、チェルノブイリ規模の被害を否定している。カギを握る電源が今日にも復旧することから、緊急冷却システムが稼働するかどうかだ。稼働すれば再冠水を達成でき、克服への大きな一歩となる。国挙げての死闘が正念場を迎えた。繰り返すが、首相たるもの安易な見通しを語るべきではない。本気でそう考えるなら直ちに発表して、対策を示せ。
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会