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2011-03-02 13:31

中東民主化が示す、ブッシュ構想7年後の真実

高畑 昭男  ジャーナリスト
 チュニジアで始まり、エジプトにも及んだ民主化デモのうねりを最も期待して 見守っているのは、ブッシュ前米大統領ではないだろうか。「中東だからといって、人々は自由とは無縁なのか。歴史や文化の故に、専制政治に耐えて生きる運命を宣告されたのだろうか。私はそうは思わない」と、ブッシュ大統領が演説して、中東民主化構想を提唱したのは、2003年11月。今から7年と少し前のことだ。9・11テロ、アフガニスタン、イラクと続く「テロとの戦い」を経て、ブッシュ 氏が得たのは、自由と民主主義の「普遍の価値」を中東にも広げることが、最良の解決につながるという結論だった。演説では「過去60年の米国の中東政策は誤っていた」とも率直に反省した。石油供給と政情安定を優先するあまり、歴代米政府は親米のサウジアラビアやエジプトも含めて、市民に自由を認めない圧政に目をつぶってきたからだ。

 ブッシュ構想は、翌年夏の主要国首脳会議(G8)の議題となり、2005年1月の2期目就任演説では、「自由と民主主義の拡大を支援し、世界の圧政に終止符を打つ」ことを掲げ、「フリーダム・アジェンダ」(自由への課題)とも呼ばれた。イラク戦争開戦後まもなく提唱された構想に、内外の冷たい視線が浴びせられたのは周知の通りだ。「外から解決を強制するのはおかしい」とフランスがケチをつけた。「民主化の押しつけ」と反発したサウジとエジプトは、G8首脳との対話すら拒否した。中東通と称する人々の一部は「中東の文化、歴史、風土に民主主義はなじまない」といった反論を並べて、ブッシュ批判を展開した。それもこれも、昨日のことのようだ。だが7年たった今、各地の民主化要求デモを見ると、これらの反論や批判は杞憂に過ぎなかったのではないかとの印象を受ける。

 エジプトのムバラク政権のように「自由化したらイスラム過激派に国を乗っ取られる」と米欧を脅してきた手法も、今後は通じまい。デモを警護する戦車兵に市民が花束を贈る姿は、1990年代の東欧民主化で目にしてきた光景とそう変わらない。ブッシュ氏は昨年、回顧録で「押しつけとの批判はあたらない。自由は米国だけでなく、世界共通の価値だ。選択を許されれば、人々は自ら選ぶものだ」と信念を語っている。
 
 その論拠の一つは、2002年に国連がまとめた『アラブ人間開発報告』にある。アラブの識者らによる報告は「自由、知識・情報、女性の社会参加の『三つの欠如』がアラブの社会発展を阻害している」と指摘した。非識字率25%、若年失業率40%などの状況が、閉塞感や不満を募らせ、過激思想につながりやすい事情もうかがえた。ブッシュ氏以前に、アラブの人々自らが「自由の拡大」を切望していた事実が読み取れよう。残念なことは、オバマ政権がブッシュ構想をおざなりにしてきたために、エジプト政変劇では迷走気味の対応に陥ったことだ。エジプトなどの今後が予断を許さないのはもちろんだが、民主化の普遍性を認識し、支援を惜しまないことが大切だ。今の流れは、少なくとも民衆レベルでブッシュ氏の信念の正しさが示されつつある兆しのようにみえる。
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