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2011-02-02 13:33

(連載)世界から軽蔑されている日本の政治家たち(1)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 興味深い事実がある。十数年前のことだが、ロシア政府がロシアにとって最も嫌な活動を「執拗に」してきた人物に、敬意を表して国家勲章を与えたのだ。故末次一郎先生(安保研代表)のことである。末次代表は、深く関わった沖縄返還問題が解決した後、1973年以後、民間の立場で北方領土返還運動に全エネルギーを注いで取り組んできた。彼は偏狭な民族主義者ではないが、北方領土問題では一貫してわが国の主権の擁護という座標軸を守り通した。その彼に対して、ロシアのプリマコフ元首相や、ヤーコブレフ元大統領最高顧問も、それぞれの回想録で最大級の賛辞を贈っている。末次氏は、「勲章はいらないから、領土を返してくれ」と言っていたが。
 
 プリマコフ元首相は、首相になる前の外相時代から、北方領土問題に関しては共同経済開発が持論で、日本への返還に対してはつねに反対の姿勢を貫いてきた。では、なぜ彼らが、ロシアの「敵」とも言うべき末次氏に敬意を払ったのか。

 これに関連して、私にはある印象的な思い出がある。1990年代にロシアの国家主義者で、北方領土の日本への返還には強く反対していたビクトル・アルクスニス下院議員と末次代表や安保研の我々がモスクワで懇談した時の思い出である。ちなみに安保研は、領土問題解決に前向きの姿勢を示していたヤブリンスキーなど民主派、改革派の代表だけでなく、領土問題でロシアの譲歩に断固反対していたジュガノフ共産党委員長や民族派の代表などとも意見交換をしてきた。アスクスニスは、もともとはソ連邦擁護派で、ペレストロイカや民主化に反対し、ソ連邦崩壊後の1990年代は愛国派の代表的な人物であった。その彼が、末次氏に向かって「ミスター末次、貴方も私も、自国を愛するパトリオットとして気持ちは同じです。もし私が日本人であるなら、私は貴方と同じ行動をとったでしょう。その意味で、私は貴方に大いなる敬意を払います」と述べたのだ。

 つまり、国家を憂える日本人としては、北方領土の返還要求を続けるのが当然だ、という考えをロシアの愛国主義者がもっていたのである。彼は、スターリン時代に不法にソ連が北方領土を領有したことは当然知っていたはずだ。わが国のある中国問題の専門家が、中国の政治家たちが内心一目置いている最近の日本の政治家は小泉純一郎首相だと教えてくれた。靖国参拝問題で中国は小泉首相を厳しく批判した。しかし、首相は「内政問題だ」と突っぱねた。「主権国家として、他国に口は出させない」という意味だ。もちろん中国人は、最も嫌な政治家としても小泉首相を挙げるだろう。しかし、内心では「日本にもサムライがいたか」という思いを抱いたのだ。中国の政治家が親中派の河野洋平氏を尊重しているわけではない。(つづく)
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