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2010-09-29 14:36

日中対立をどのように逆転させるか

進藤 榮一  東アジア共同体評議会副議長
 東シナ海浪高しーー。尖閣諸島をめぐって日中対立が再燃した。たまさか国際会議に出席し、北京、天津、青島で日中友好の絆を確認し合って帰国した直後だっただけに、強い衝撃を受けざるを得なかった。なぜいま日中対立なのか。胡錦濤主席の訪日「暖春の旅」から2年しか経っていないのに、なぜ「政冷経熱」へと歴史の歯車を逆転させるのか。これまで尖閣周辺での中国漁船操業に対し海上巡視艇は、追尾し、領海から排除する行為に止まっていたのに、なぜ今回に限って、全船員を拘引し、船長を逮捕する強硬手段に出たのか。漁船による故意の衝突を客観的に証明できる証拠が明らかでないのに、なぜ中国側抗議を無視し、船長を拘留し続けたのか。

 ここで、日本と中国のいずれが、尖閣諸島(中国名・釣魚島)を領有するのかを問う、歴史的、あるいは国際法上の正当性の議論には立ち入らない。むしろ立ち入るべきは、日中友好条約批准書交換時にトウ小平が語った「こういう問題は一時棚上げしてかまわない。次の世代はわれわれよりもっと智恵があるだろう。皆が受け入れられるいい解決方法を見出すだろう」という言葉である。これが、日中友好の原点だと言ってよい。

 そしてその延長線上に、福田康夫元首相と胡錦濤国家主席の間で交わされた東シナ海ガス田共同開発の合意がある。すなわち、尖閣海域にある「春暁」周辺は、すでに中国が単独開発に着手しているのだから、日本は出資によって開発の実を取り、ほかの地域では共同掘削を進め、「日中エネルギー共同体」の原資とするという戦略的思考である。「領土論争を棚上げにした上で、日中関係の深化を図る戦略的思考だ」といいかえてもよい。この合意は、鳩山由紀夫前首相と温家宝首相の間で再確認されて、局長級交渉に入っていた。それが今回の対立で、再び頓挫に見舞われたのである。いったい私たちはいま何をなすべきなのか。

 解は、日中友好の原点に立ち返ることにある。けっして、領土合戦の愚に出ることではない。その意味で、いま私たちが試されているのは、台頭する巨大なアジア市場の現実下で、日本が「政冷経熱」への逆転の愚をどこまで自覚できるかにある。力によってではなく外交によって、日米同盟によってではなく日中関係の深化によって、どこまでウィン・ウィン(相互利益)の関係を構築できるか、にかかっている。疑いもなく、それは鳩山前首相が唱道した「日中食糧エネルギー環境共同体」の構築にこそある。そのことを私たちは、かつて独仏が領土争いで数度にわたり戦ったルール、ザール地方の国境画定を棚上げにして、「欧州石炭鉄鋼共同体」を構築した歴史の教訓に学ぶことができる。それが、日中対立逆転への王道である。
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