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2010-02-12 09:48

政治家の言動に求められる教養

易原俊雄  大学教授
 入山映氏の論考「失笑を買った鳩山首相の施政方針演説」(本欄1月31日付け投稿)を読ませて戴き、痛感するのは、話し方の巧拙もさりながら、とどのつまりは、話し手の持つ哲学や歴史観、世界観の問題ではなかろうかと思う次第。かつてわが国には「傲然と腰を抜かす」と揶揄された前尾繁三郎のように、教養が邪魔をして、派閥を失ったような政治家もいたが、いまや「剛腕」か、「究極のこども手当」か、それともパナソニック政経塾出身の金太郎アメのような政治家フィギアが、大手を振っているブザマな有様。さて、その剛腕氏が、新年に160人を超える「取り巻き連」を自宅に参集させ、賑々しく新年会を開き、世間に向かって権勢を誇示したことは、まだ記憶に新しい。あの時、彼の家には膨大なタンス預金があったのだろうか、と今になっては勘繰りたくなるが・・・。ところで柄にもなく満面の笑みを浮かべ新年の挨拶をする彼の背後の壁に掛っていた「対聯もどき」には、「桜花春日太平国、江戸明朝第一郎」と書かれていたはず。

 最初、このシーンを目にした時、彼と北京とのただならぬ関係から、北京の要人の揮毫かと思ったが、それにしては何だかヘンだ。字面が「俗」に過ぎるのだ。どのように頭を捻っても(いや、捻る必要もないのだが)、単なる思い付きで、それらしい漢字を並べたただけとしか思えない。「桜花」「春日」「太平国」「江戸」「明朝」「第一郎」では、とてもじゃないが、恥ずかしくてマトモナ大人なら人前で口にできそうにない単語の羅列だ。最近の中国の指導者は、胡錦濤主席以下理科系出身者が多いそうだが、それでもかくも無残で陳腐な文字を書き連ねるようなヘマはしないはず。だいいち、古典に依拠したような典雅な趣、いいかえるなら教養が微塵も感じられない。あんなものを外国の要人に書いて渡したら、後世の恥というもの。中国の政治家としては失格であろう。だから周恩来にしても、とう小平にしても、軽はずみには揮毫を残さなかったはずだ。

 では、あの14文字は誰が書いて、なんのために剛腕氏に贈ったのか。韓国の『中央日報』紙が報ずるところでは、韓国で名筆の誉れ高い金忠顕(1921年~2006年)の作品で、なんでも財閥の双竜グループ総帥だった金錫元が韓日議連会員当時に贈ったものだとか。「桜の花が満開の春の日、太平である国で、江戸(東京)の新しい朝の最初の士」とか「太平な日本の春の日の桜の咲く頃、東京に新政権が発足すれば最初に行く人」とかいうのが、14文字の意味だそうだが、金錫元が考え、金忠顕が筆を揮ったらしい。同紙は「日本の現在の政局を表している点が興味深い」と指摘しているが、それは牽強付会に過ぎるというもの。これを贈られた当時の剛腕氏は、金丸と竹下の威光をバックに、政権与党・自民党の若き幹事長として辣腕・剛腕を恣に振るっていたわけだから、贈り手が若き剛腕氏に媚び諂ったとしか思えない。

 当時を思い起こせば、総理総裁候補だった先輩たちを、不躾・無礼にも呼びつけて、面接し、そのうちの1人から「大幹事長」とまで煽てあげられ、悦に入っていたはず。「若気の至りの勇み足」を思い出させるような14文字を、人前に曝し、いったい剛腕氏は恥ずかしくはないのか。それとも、あの14文字を掲げることは、なにかのサインだったのか。若い世代はともかくも、剛腕氏世代なら持っていていいはずの含羞というものを、忘れてしまったのだろうか。日本人としては何とも奇妙な感性の持ち主としかいいようはない。中国には「愚ニアラザレバ、誣ナリ」という言葉がある。あんなバカな事をやっているということは、本人が大バカか、あるいは世間をバカにしているかのどっちかだ、といった意味。まさに14文字を背にした剛腕氏には、「愚ニアラザレバ・・・」としか感じられない。もちろん、入山氏の指摘されている「命施政方針演説」も同じだ。

 さて剛腕氏は「解放軍の野戦軍司令官」を任じているようだが、人民解放軍の最高司令官は胡錦濤だから、剛腕氏は胡司令官の部下ということになる。胡司令官は14文字を背にしてご満悦の「野戦軍司令官」の姿を、どのように見ただろうか。愈々以て剛腕氏を頼もしく思った。はたまた中国人の揮毫を掲げない剛腕氏の真意を訝った。それとも「愚ニアラザレバ・・・」と呟いた。鳩山首相にせよ、小澤幹事長にせよ、彼らは日本を代表しているのだ。少女趣味の美辞麗句を並べ、仲間内のウケを狙ったり、お小姓集団に囲まれて、お山の大将を気取ったりするのではなく、古今東西の指導者が舌を巻き、彼らの心胆を寒からしめるよう、教養の香華溢れる言動を見せてもらいたい。それこそが、日本と日本人に活力を呼び覚ます王道だろう。
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