国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-12-15 10:07

(連載)中国マクロ経済政策の方向性2010~2016年(4)

関山 健  東京財団研究員
 中国の産業構造は、2008年時点のGDP比で第一次産業が11.3%、第二次産業が48.6%、第三次産業が40.1%と、サービス業が未発達な状態にある。一方で、これまでの中国の経済発展を主導してきた第二次産業では、鉄鋼、アルミ、セメントなどの業種で過剰生産能力が生じていると言われており、その調整が大きな課題となっている。そこで、中国政府としては、「十二・五」期間に投資の重点を第二次産業から第三次産業へと誘導し、一部製造業における過剰生産能力の解消とサービス業の発展を促したい考えだ。
特に、サービス業は労働集約的な業種が多く、雇用吸収力が高いため、就労問題こそ国内安定の鍵である中国にとっては、是非とも発展させたい分野である。

 さて、ここまでの政策では、どうやって資源環境の保護と高度経済成長の実現を両立するのかが見えてこない。この相反する目標を同時に実現する方策として中国政府が考えているのが、「主体功能区」の設定による地域別開発政策の実施である。「主体功能区」とは一種の国土計画であり、それぞれ異なる資源環境条件や開発条件にあわせて、中国全土を「優先開発区」、「重点開発区」、「開発制限区」、「開発禁止区」の4区域に分けて、それぞれ異なる「功能」(機能)を果たすべく開発政策を行おうとするものだ。

 例えば、環渤海地域、長江デルタ地域、珠江デルタ地域は「優先開発区」の候補であり、これら地域は中国の総合経済力増強をリードするべく開発を進め、それぞれ人口1億人規模の大都市群を形成するとされる。次に、台湾海峡地域、中原地域、長江中流域などは「重点開発区」の候補であり、これら地域では「優先開発区」同様に総合経済力の増強に向けて工業化や都市化を進めるべく開発が行われ、人口1000~5000万人規模の都市群の形成を目指すという。また、東北平原、黄准海平原、華南、甘粛、新疆などは農業生産を主たる「功能」とする「開発制限区」として、大規模な都市化や工業の高度化は制限して農業生産能力の維持向上を目指すことになる。最後に、青蔵高原や黄土高原、東北森林帯や重要水系などは、生態と自然環境の保護を目的に開発を厳しく制限しつつ、持続可能な範囲での資源利用にとどめる「開発禁止区」となろう。

 こうした各地域の「功能」ごとに異なる開発基準を立て、それを地方指導者の業績評価に反映させる仕組みを考えているという。この「主体功能区」の仕組みは、開発政策を司る国家発展改革委員会によって2006年に第十一次五カ年規画綱要草案に盛り込まれたものの、その後開発を制限されて発展の機会を奪われることを心配する一部地方などから大きな論争が巻き起こり、いまだ実現の陽の目を見ないでいる。国家開発委員会は「主体功能区」を改めて「十二・五」に盛り込むことを考えているようであり、これが実施される場合には中国に進出している日本企業にも大きな影響が及ぶ可能性があることから、その動向には今後も注目が必要であろう。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会