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2009-07-31 16:37

人民元による貿易決済は道遠し

村瀬 哲司  龍谷大学教授
 2009年7月上海と広東省4都市のパイロット企業により、ASEANや香港との貿易の人民元決済が開始された。パイロット企業は、対外競争力や財務健全性など一定の基準により中国当局により選ばれ、認可された優良企業である。中国からの輸出取引の場合、パイロット企業A社は、ASEAN所在の取引先B社から輸出代金をB社の人民元預金口座が開設される海外参加(決済)銀行から中国銀行香港(クリアリング銀行)あるいは在上海エージェント銀行経由で自社の人民元口座のある国内決済銀行で受領する。輸入業者B社は、海外参加銀行と人民元の為替取引をし、貿易金融を受けることもできる。

 今回施行された人民元決済スキームの特徴は、中国人民銀行を中心とする関係当局が、当事者の選別からスキームの運営、統計処理に至るまですべての過程を厳重な管理下においていることである。パイロット企業とその決済銀行、海外の参加企業とその代理業務を行う国内エージェント銀行、香港のクリアリング銀行は、監督当局の認可を受けなければならない。貿易の流れは、実需の確認と資金移動ともに、決済銀行とエージェント銀行が「人民元対外収支情報管理システム」を通じて詳細に中国人民銀行に報告しなければならない。関係当事者の違反行為には罰則規定がある。
 
 貿易の人民元決済が今後増えるかどうかは、(1)中国経済の成長を背景に、(2)国営・民営企業を問わず多くの輸出入業者が、この当局の厳重な監視下にある決済ルートを選択するか、(3)中国企業と海外の相手企業との力関係、さらに(4)海外貿易業者にとっての人民元の調達・運用・リスクヘッジ面での利便性などに依存する。

 (1)は大前提である。(2)については、貿易業者は、商売の内容をすべて当局に知られるよりも、取引を外貨建てのままとし、割高でも為替リスクを市場でカバーしようとするかもしれない。(3)に関しては、加工貿易企業は売買両サイドでドル建てを選好すると思われることから、一般輸出企業の競争力が問題になろう。人民元の切り上げ傾向のもとでは、中国の輸入企業は外貨払いを選好するだろう。(4)に関し、資本取引が制限された市場環境のもとでは、これらのニーズを満足する金融商品は極めて限られる。例えば為替リスクを回避するために、海外で先物予約を締結できるだろうか。これらを考慮すれば、人民元建て貿易の本格的進展には、なお時間を要すると考えられる。
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