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2009-05-29 07:44

厚労省分割は、首相の手に余っただけ

杉浦正章  政治評論家
 厚労省分割論が2週間であぶくのように消えた。指示したはずの首相・麻生太郎も「最初からこだわっていない」と、雲をかすみと“とん走”した。当初の狙いは失態、不祥事続出の厚労省を改革、総選挙の争点として一挙に劣勢挽回を図ろうというものだった。実現すれば「郵政民営化選挙」の再来となりえた起死回生の妙手だっただろう。しかし族議員を抱えて、根回しなしの拙速きわまりないトップダウンでは無理だ。簡単に言えば麻生に“処理能力”がなかったのだ。

 そもそもは読売グループ本社会長兼主筆・渡辺恒雄の発案で、これを受けた麻生が財務・金融・経済財政相・与謝野馨に指示して推進しようとしたものだ。厚労省の肥大化は、一般歳出予算52兆円のうち同省関係だけで25兆円も占めていることが端的に物語っている。このところのニュースの出具合を見ても、担当相・舛添要一が姿を現さない日はない。年金記録問題に始まって、インフルエンザ、雇用対策、医療・介護問題など複雑多岐にわたっている。インフルエンザでは「よく分かっていない大臣がしゃしゃり出ないで、専門家を出せ」という批判がよく聞かれた。所管分野が多すぎて、舛添自身の監督権が弱体化していたといわれる。こうした状態が、名だたる社会保険庁の不祥事につながったともいえる。厚労省が今の態勢でしっかりした対応をするのは困難だろう。この問題認識自体は正しい。

 しかし、問題は首相のハンドリングだ。5月29日の朝日新聞の社説をして「厚労省分割:またしても政権の迷走」と書かれてしまう、すきだらけのものだった。象徴的なのが、厚労省所管の保育園と文部科学省所管の幼稚園の一元化。それぞれに族議員がついており、とりわけ文教族の反発が強かった。文教族のドン森喜朗まで怒らせてしまった。なぜかと言えば、一にかかって“根回し不足”であったからだ。これだけの大事業を成し遂げようとすれば、党内根回しに少なくとも半年はかかる。それなしでトップダウンで処理する政治力は、麻生にはいささか欠けている。危険な橋をそれと認識せずに渡ろうとしたのが、全ての原因だ。定額給付金の高額所得者辞退問題と似ている。

 民主党の副代表・前原誠司に「哲学もないまま、選挙のために飛び付いた付け焼き刃が露呈した。自ら墓穴を掘っている」と指摘されたが、“敵失追及政党”にまたまた絶好の餌を投げ与えてしまった。毎日新聞によると、5月28日の政府の「安心社会実現会議」で委員の1人から批判された渡辺恒雄は、「無礼だ」、「黙ってはいられない」、「党利党略に新聞社の主筆たるものが便乗して、振り回されているようなことを言われた。取り消していただきたい」とかんかんに怒ったという。まあまあナベツネさんそう怒りなさんな。ご愛敬、ご愛敬。狙いは悪くなかった。
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