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2009-05-11 22:21

政治家が口をはさむ問題ではない:NHKの台湾統治報道

大江 志伸  江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
 森羅万象は正と負、陰と陽によって成り立つという道理を理解できない人々が、この島国には存在するようだ。NHK総合テレビが4月5日に放送した「NHKスペシャル・シリーズ:JAPANデビュー」の第1回番組「アジアの“一等国”」を巡る、“自尊史観”派の反発のことである。50年に及ぶ日本の台湾統治をテーマにしたこの番組に対する批判論調は、全国紙では目下、産経新聞グループが中核となっている。産経新聞が掲載した記事、論説、特集面の論旨をまず紹介しよう。

 ▽自民党町村派の4月23日の総会で、番組批判が相次いだ。稲田朋美衆院議員は「台湾は親日家が多いのに、番組は反日の部分だけを偏向して報じた」と批判。安倍元首相は「番組はひどすぎる。関心を持ってこのシリーズをみてほしい」と呼びかけた(4月24日付記事)。
 ▽(台湾の高齢者が持つ)複雑、微妙な日本に対する愛情を、日本の植民地統治を罵るために利用し、協力者の善意を足蹴にした(4月27日付「正論」鳥居民氏)。
 ▽出演者の柯徳三さんは「日本統治の功罪の両面を50%ずつ話したが、NHKが取り上げたのは罪の部分だけ」と評した(5月3日付「検証NHKスペシャル」)。

 筆者は「随分と大胆だな」と思いながら、この番組を視聴した。柯氏自身が言うように、日本の台湾統治に功罪両面があったのは、歴史的事実だ。先の検証記事によれば、「功」の面をばっさり割愛した大胆な番組内容について、「NHKには4月末まで2500件を超える声が寄せられ、多くが一方的という意見」だったという。この番組だけを俎上にあげれば、そうした批判が起きるのもうなずける半面、筆者はNHKの「大胆さ」に共感を覚える。台湾統治について日本では、“自尊史観”派を中心に「功」の面だけが過大に強調されてきた。大局的な台湾観から見た場合、NHK番組が、これまで欠落していた「罪」の視点を視聴者に提供した意義は小さくない。

 折しも、放送界で作る第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の検証委員会は、旧日本軍の従軍慰安婦問題を扱ったNHKの特集番組の放送前日、当時、官房副長官だった安倍元首相がNHK幹部と会い、「公平、公正に報道してほしい」と“圧力”をかけた問題について、「視聴者がNHKに寄せる自主・自律への期待と信頼に対する疑念を起こさせる」との見解を発表した。今回のNHKスペシャル騒動も、政治家が口をはさむ問題ではない。
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