ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2025-10-24 00:00
第3期習近平体制の人事的特徴⑤
松本 修
軍事アナリスト(元防衛省情報本部分析官)
中国共産党の重要会議である第20期中央委員会第4回総会(以下、第20期4中総会と略)が、2025年10月20日から23日まで開催された。23日の閉会後、発表されたコミュニケによれば、第20期4中総会は2026年から2030年にわたる5年間の内政・外交政策を方向付ける「十五五」第15次5か年計画の基本方針を採択するとともに、内外で注目された中央軍事委員会人事と、中央委員会メンバー(中央委員、同委員候補)の党籍剥奪処分を決定した。新たな5か年計画は、今回の基本方針に基づいて「草案」が作成され、来年2026年3月に予定される第14期全国人民代表大会(全人代)第4回会議での討議・修正を経て採択されることから、具体的な内容の検討は来春にあらためて行いたい。今回のコミュニケの焦点は、一昨年(2023年)以降の不祥事を受けた軍人事問題であった。
中央軍事委員会人事であるが、腐敗汚職問題で党籍剥奪処分を受けた何衛東副主席の後任には張昇民委員(軍紀律検査委員会書記兼中央紀律検査委委員会副書記、元ロケット軍政治部主任)が「増補」内部昇格した。2022年の党大会後に決定された序列上は、劉振立委員(聯合参謀部参謀長、元陸軍司令員)の方が格上であったが、今後も反腐敗闘争を継続する中では「政治工作」政務担当の副主席(もう一人の副主席である張又侠は総括、軍務全般担当)には張昇民の方が適格と判断された可能性が高い。他方、軍事委員会委員には「増補」が無く、一昨年失脚した李尚福の後任の国防部長である董軍(元海軍司令員)や、昨年失脚して今回、党籍剥奪処分を受けた苗華の後任の政治工作部主任(未定、本来なら昇格が予想された常務副主任の何宏軍も、今回同様の党籍剥奪処分)、及び張昇民の後任の補充はなかった。したがって当初、習近平主席以下「チャイナセブン」7名体制で発足した中央軍事委員会は、3名欠員の「四人組」4名体制(主席:習近平、副主席:張又侠、張昇民、委員:劉振立)となってしまった。これで真っ当な軍事指導体制がとれるのか否か疑問であるが、ここに2016年以降の「習近平の軍事改革」の妙がある。要は軍務全般に関する執務機構であった、かつての「四総部」(作戦・訓練担当の総参謀部、政治工作・人事担当の総政治部、兵站担当の総後勤部、装備開発・購入担当の総装備部)を全面的に解体し、それぞれの職能を15部門に再編成した上で軍事委員会内部に全て組み込んだことから、軍事交流主管の国防部長や、軍人事担当の政治工作部主任といったトップが不在、あるいは「無力」でも軍務全体は、副職あるいは下位の担当者によって円滑に遂行されるのである。まして「最終決定権者」である習近平主席が健在で、習近平指導体制が盤石なら「主席責任制」が貫徹されるシステムということになるわけだ。今回、第20期4中総会開催前には、2027年開催予定の第21回党大会におけるポスト習近平体制を意識した「文官」副主席の就任、あるいは「習近平派」の若手軍人の委員抜擢など膨大な「揣摩臆測」報道がなされたが、「大山鳴動して鼠一匹」最低限の軍人事が行われただけであった。
しかしながら、第20期4中総会開幕直前の10月17日、中国国防部が先行的に発表した中国人民解放軍高級幹部(上将)9名の党籍・軍籍剥奪処分は衝撃的であり、いくら反腐敗闘争を継続実施しても全く「根治」しない軍の腐敗汚職問題の深刻さを、あらためて浮き彫りにすることになった。既述の人物もいるが、9名の内訳は①何衛東中央政治局委員・軍事委員会副主席、②苗華中央軍事委員会委員・政治工作部主任、③何宏軍政治工作部常務副主任、④王秀斌中央軍事委員会聯合作戦指揮センター常務副主任、⑤林向陽東部戦区司令員、⑥秦樹桐陸軍政治委員、⑦袁華智海軍政治委員、⑧王春寧武装警察部隊司令員(以上8名は党中央委員)、⑨王春斌ロケット軍司令員(非中央委員会メンバー)である。そして、今回のコミュニケで党籍剥奪処分が確認された軍人は張鳳中ロケット軍政治工作部主任(中将で党中央候補委員)であり、①~⑧の8名に彼を加えた9名の軍人、さらに既に更迭されていた唐仁健前農村農業部長、金湘軍前山西省省長の2名、さらに中央委員候補3名も加えた大量14名もの党中央委員会メンバーが党籍剥奪処分を受けるという異例の措置が行われた。特に軍人の状況を細部みると、政治工作系統が5名、作戦系統が4名であり、張昇民を含めてロケット軍出身者が目立つが空軍からの処分者はいない。また、政治工作部のトップと次席を除けば軍内党組(フラグメント)構成上、司令員と副司令員、政治委員の同時処分はなく安定が保たれており、9月の「軍事パレード」閲兵式典の遂行や、今後の対台湾軍事訓練・演習には影響は少なかったと思われる。
第20期4中総会の動向に関する報道を行った10月24日付の読売新聞朝刊は、本年発刊された浩瀚の書『習近平研究ー支配体制と指導者の実像』(東京大学出版会)の著者である鈴木隆大東文化大学東洋研究所教授のコメントを掲載し、「4中総会の声明は、2027年の共産党大会後も習近平政権を継続するという決意を示したものだ」とし、今回の軍人事に関しては「党中央軍事委員会の欠員補充はなく、副主席に67歳の張昇民・同委員会委員が昇格した。もう1人の副主席である張又侠氏も75歳と高齢で、次の党大会で両氏はともに引退する可能性が高い」と述べた。そして、鈴木教授は「次期党大会では、欠員の補充も含めて中央軍事委員会の大がかりな人事が行われるとみられる」ことから、「習氏は今後の人事を使って政治的な求心力を高めようとしている」とも主張しており、小生は教授の主張に同意し、我が意を得たりという感じである。本年4月8日付の拙稿「第3期習近平体制の人事的特徴④」の結論部分で、その特徴は「政府や軍のVIP人事を断行する『トランプ化』の模倣なのか、それとも『習近平体制』の一層の深化なのか、まだ判断出来ていない」としていたが、やはり後者の方向へ向かっている模様であり、今後の動向が注目される。
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会