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2018-04-18 00:00
(連載1)南北首脳会談と真価が問われる文在演
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
金正恩朝鮮労働党委員長が非核化の意思表示を行ったことにより、6月上旬までに米朝首脳会談が開催される展望が開かれるに至った。米朝首脳会談が今後の朝鮮半島情勢を大きく左右することは間違いない。歴史的な合意が首脳会談で達成されるであろうか、それとも決裂に首脳会談は終わるであろうか。ここにきて北朝鮮の非核化への取組みについて米朝間の捉え方が全く異なることが浮き彫りになる中で、合意に至る展望が開けないまま決裂に終わる可能性が色々と取り沙汰されている。金正恩による非核化の意思表示を受け首脳会談を即断したトランプ大統領は素早く動いた。外交を取り仕切る重要な人事の刷新を行い、トランプ政権は非核化の取組みを明確にした。トランプの考えによると、金正恩がなすべきは「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」であり、金正恩指導部がこうした非核化を完遂して初めてそれに相応する見返りを米国は与えるという内容である。非核化を言い出した金正恩の真意を疑うトランプにすれば、北朝鮮が先に非核化を完遂しない内に見返りを与えることがあれば、見返りを手にした金正恩はその段階で非核化を放棄してしまうであろうと疑心を抱いている。要するに、金正恩の言うところの非核化の完遂をトランプは心底疑っている。
トランプによる素早い対応に驚いたのが金正恩であった。非核化を言いだしたとは言え、トランプの言わんとするところの「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を受け入れる用意は金正恩に毛頭ない。金正恩とすれば、先に北朝鮮が非核化を実施に移すことがあれば、見返りをトランプが与えることなどありえない。この結果、非核化を通じ武装解除された北朝鮮は米軍による攻撃に曝されかねない。これでは非核化を行うだけで一方的に損失を被るだけであると金正恩は思い込んでいるのであろう。金正恩が受け入れる用意があるのは段階的かつ同時並行的な非核化への取組みである。すなわち、非核化のプロセスを幾つかの段階に分け、北朝鮮が非核化に向けた履行を行うと同時並行する形で米国が見返りを与える内容である。トランプの「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」と真っ向から対立する。それ以上に段階的かつ同時並行的な非核化が金正恩にとって都合がよいのは、今も極秘に進めていると目される対米ICBMの完成に向けた格好の時間稼ぎになることにあろう。段階的かつ同時並行的な非核化の実施ともなれば、非核化の最終段階である核関連施設の解体や核の廃棄に至るまで数年単位の時間を要し、それまでの間、対米ICBMの完成に向けて時間を稼ぐことができるのは間違いない。
金正恩は、米朝首脳会談が開催されるまで段階的かつ同時並行的な非核化の取組みに対し周辺の関係国から理解を得ようと必死である。首脳会談決裂という事態に対処すべく金正恩も素早く動き始めたのである。こうして急遽実現したのが中朝首脳会談であった。習近平指導部の捉え方は朝鮮半島の非核化と半島の平和メカニズムを交渉を通じ同時に達成する「双軌並行」とされ、金正恩の段階的かつ同時並行的な非核化に近い。3月26日の中朝首脳会談において習近平中国国家主席と金正恩は「漸進的・同時的措置(progressive and synchronous measures)」に合意したとされる。金正恩の段階的かつ同時並行的な非核化に習近平は賛同したようにみえる。朝鮮半島の現状が突発的に変更するような事態は何としても回避したい習近平からみて、金正恩をして非核化に取り組ませながら半島の現状を維持することこそ、中国にとっての国益に叶うと習近平は判断していると推察される。この背景として北朝鮮の非核化の完遂は途方もなく難しいと習近平が認識していることがあろう。
金正恩は、習近平を皮切りに関係各国の首脳と首脳会談を開催することにより理解者を募りたいところであろう。金正恩にすれば、段階的かつ同時並行的な非核化について習近平からお墨付きを頂いた次は文在演大統領から理解を取り付けることである。すなわち、金正恩にとって次なる標的は4月27日に南北首脳会談で顔を合わせる文在演である。五輪外交を契機として韓国大統領特使団が訪朝、訪米、訪日、訪ロと獅子奮迅の仲介外交を展開することにより北朝鮮の非核化への道を切り開いた感があったが、その後、金正恩によるほほ笑み外交に外交の主役の座を奪われた感がある。強硬一辺倒であった金正恩がここに来てほほ笑み外交を繰り広げているのも、文在演と韓国世論を味方につけようとしていることが透けて見える。この結果、金正恩のほほ笑み外交に曝され文在演は浮足立っている感がある。米朝の間でどっちつかずの感のある文在演は金正恩にとって実に組みしやすい相手である。文在演は金正恩の段階的かつ同時並行的な取組みに賛同はしていないものの、トランプの「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を必ずしも支持しているわけではない。文在演が支持しているとされる非核化への取組みは金正恩指導部が非核化を行うと同時にトランプ政権が金正恩体制に安全の保証を与えるという一括解決方式と呼ばれるものである。(つづく)
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