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2018-02-15 00:00
(連載1)対米ICBM完成の展望とトランプの選択肢
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
対米ICBMの完成に向けて狂奔を続ける金正恩指導部と、これに対しそうはさせじと経済制裁を主として最大限の圧力を加えるトランプ政権は、激しい鍔迫り合いを演じている感がある。国連安保理事会において北朝鮮への経済制裁を盛り込んだ決議が相次ぎ採択され決議が履行されていることにより、経済制裁が日々厳しさを増しているとは言え、金正恩がトランプに屈服する予兆は今のところみえない。2006年10月に北朝鮮へ経済制裁措置を盛り込んだ安保理事会決議1695が採択されて以降、大規模な軍事挑発の度に決議が採択され経済制裁は徐々に強化されてきた。とは言え、以前における規制の主な眼目は兵器取引や金融取引であり、その履行も加盟国の自由意思に任されていたこともあり、これといった実効性はあがらなかった。ところが、2016年初め頃から金正恩指導部による対米核攻撃能力の獲得に向けた狂奔が加速する中で、安保理事会決議が頻繁に採択されると共に経済制裁の内容は確実に厳しさを増している。
北朝鮮の主要輸出品である石炭、鉄・鉄鉱石、海産物などは全面輸出禁止となった。また貴重な外貨を稼いできた北朝鮮労働者の海外派遣にも縛りが掛かり、労働者の派遣は今後禁止となる。これらの結果、外貨獲得は日々困難となり金正恩指導部も苦境に立たされている。とは言え、同指導部が核・ミサイル開発を何にも増して最優先する結果、核・ミサイル開発自体に歯止めが掛かっているようには見えない。その代わり、経済制裁が直撃しているのは北朝鮮国民の生活であり、国民の生活は困窮を極めている感がある。加えて、北朝鮮の主要輸入品である原油と石油精製品からなる油類全体にも縛りが掛かった。油類の内、原油の供給は例年通りである一方、石油精製品の供給は実に9割近く削減されることになった。習近平指導部もトランプ政権が提出する安保理事会決議草案には色々難色を示すものの、最終的には決議案の支持に回り決議は決まって全会一致で採択されている。
安保理事会決議が相次ぎ採択され、それに従い経済制裁が履行に移されている。確かに北朝鮮の対外貿易において圧倒的な比率を占める中国による決議の履行については未だに曖昧かつ不透明なところが散見されることに加え、統計に表れない非公式の中朝貿易の総額は統計上の貿易総額を上回るとみられている。とは言え、これまでにないほどに経済制裁が厳しさを増していることは事実であり、金正恩にとっても想定外の事態であると言えるであろう。他方、間断なく続く経済制裁による締付けにもかかわらず、核武力建設路線の下で核・ミサイル開発が最優先されていることから、当分の間は対米ICBMの開発を金正恩指導部は継続できるであろうとみられる。問題なのは一年以内に対米ICBMが完成の運びになるとミサイル専門家が推察していることである。2017年11月29日の「火星15」型ICBM発射実験を踏まえ、500キロ・グラム程度の弾頭搭載で約8500キロ・メートル飛行できるICBMが一年以内に完成する可能性があると、ミサイル専門家のエルマン(Michael Elleman)は推定した。当該ICBMが米西海岸を叩くことが可能になるであろうと推察されていることから、ICBMの完成実現はトランプにとって避けて通れない問題となりかねない。
とは言え、対米ICBMの完成が明白な形で実証されない限り、対米ICBMの完成をトランプが認めることはないであろう。したがって、疑う余地のない形で対米ICBMが完成したことをトランプに示す必要に金正恩は迫られよう。北朝鮮から3400キロ・メートル程度しか離れていない米領グアム島へのいわゆる「グアム包囲射撃」では対米ICBMの完成には物足りない。また対米ICBMの完成を実証するためには巨大な爆発威力を備えた水爆実験を行う必要はないであろう。むしろ「火星15」型ICBMに搭載可能な小型核弾頭を完成することにより「小型弾頭化」技術を確立する必要があろう。またマティス国防長官が厳しく評価している通り、「再突入技術」の確立の目途はまだ立っていないのが現状である。言葉を変えると、対米ICBMの完成のためには500キロ・グラム程度の重量の核弾頭を搭載したICBMを太平洋方面に打ち上げ、米国に近接した太平洋上空で核爆発実験を強行することが求められるのである。これを明確に実証する実験こそ、2017年9月21日に李容浩(リ・ヨンホ)北朝鮮外相が示唆した「太平洋上での水爆実験」であることに疑問の余地はない。もしこれに成功することがあれば、トランプが北朝鮮の核保有を容認するかどうかの瀬戸際に立たされる可能性がある。(つづく)
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